日本ラグビー史上「伝説」の試合が生まれました。10月29日に新国立競技場で行われた日本対ニュージーランド(NZ)の国際試合に、6万5188人が来場。日本のラグビー代表戦(W杯以外)最多、東京五輪のために改装されたナショナルスタジアム誕生以来最多の観客となり、オールブラックスと日本の激突に熱狂しました。
超満員の国立競技場で披露されたハカ
人口540万人のNZは、過去3度のW杯優勝を誇るラグビー王国です。試合前には「HAKA」という先住民族マオリの戦闘のチャントで士気を高める儀式が有名で、「Ka Mate Ka Mate!(私は死ぬ)」で始まるリード役の雄たけびに、他の選手は「Ka Ora Ka Ora!(私は生きる)」と胸や太もも叩きながら応じます。ハカの瞬間を、6万人の観客が静寂で見守り、23人の選手の気高い声がスタジアム4階の記者席にもはっきり届きました。
世界王者に肉薄したゲーム
日本が1980年代から過去6度対戦し100点以上の大差で敗れてきたNZ…。その歴史を変えようと、この日は日本が積極的に攻撃を仕掛けます。前半は2トライをあげ、17-21。後半も桜のジャージの日本が、漆黒のオールブラックスを苦しめ、後半39分には、FL姫野が密集から抜けてトライを決め31-35。4点差と肉薄しましたが、直後に追加点を許し最終スコアは7点差の38―31。大金星まであと一歩の悔しい敗戦となりました。
悔しさも見せた代表監督
日本代表監督で自身もNZ代表経験があるジョセフ監督は「選手たちはいい試合をして、勝てる試合だった。勝てていたら日本の歴史に刻まれる試合だった」と選手の成長を認めつつ、悔しさをにじませました。
ハワイと同じ太平洋の島国にルーツを持つNZ。母方にマオリの血を受け継ぐジョセフ監督はかつてのインタビューで「私の祖先はカヌーを漕いでNZにやってきたんですよ。祖先を知ることは文化としてとても大切なこと」と語り、日本代表にも日本文化を知る大切さを説き、チームに一体感を求めています。
ハワイとNZの意外な共通点
NZの人口比は、2019年の調査では欧州系が最多の70%ですが、マオリ系は16%、太平洋諸国系は8%、アジア系が15%とハワイ同様の多民族の構成です。神聖なハカの儀式にも、古典フラの「カヒコ」に通じる精神を感じますが、試合前に歌唱されるNZ国歌の中には「Aroha」の歌詞が登場します。スペルこそ、ハワイのAloha と違いますが、意味は同じで他にもマオリ語で水はハワイ語と同じ「Wai」、太平洋も「Moana」と同じです。
この日のオールブラックスも白人系、マオリ系、サモア系と様々なルーツを持つ選手がミックスされ、世界から恐れられ、国民からは愛される最強のチームを作り上げていました。国立競技場で出会った男性2人組は「NZ出身で今はカルフォルニアに住んでいるけど、5泊の日程で西海岸から応援にきたよ」。海外に住んでも親子で応援に駆け付ける…。チームへの愛情と尊敬が溢れていました。
日本の驚きのハカ対策は…?
日本は11月、欧州に遠征し現地でイングランド、フランスと強豪に挑み、来年9月のフランスW杯の本番に向けて強化を続けます。そうそう、印象的だったのが試合後の取材で姫野が明かした日本のハカ対策。「(監督の)ジェレミーから、前のほうの選手は生粋のマオリでハカが上手だけど、後ろの選手はうまくないから、そのあたりの選手を見ろとミーティングで言われました」。実はそんな“変則技”で、オールブラックスの圧をかわした日本も、世界の強豪に近づきつつある証拠かもしれません。
東京・大手町発 マスコミ系働き女子のひとりごと Vol.52
(日刊サン 2022.11.11)
竹下聖(たけしたひじり)
東京生まれ。大学卒業後、東京の某新聞社でスポーツ記者、広告営業として15年間勤務後、2012年〜2014年末まで約3年間ハワイに滞在。帰国後は2016年より、大手町のマスコミ系企業に勤務。趣味はヨガと銭湯巡り。夫と中学生の娘、トイプードルと都内在住。
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