先日、WBCで優勝した野球の日本代表のドキュメンタリー映画「憧れを超えた侍たち~世界一への記録~」を映画館で鑑賞してきました。劇的勝利で3大会ぶりに優勝した侍ジャパンの感動がよみがえりましたが、この栄光のチームのユニークな象徴が、史上初の“日系サムライ”ラーズ・ヌートバー選手でした。
初の日系WBC選手、ヌートバー
今年1月、WBCに向けた侍ジャパンの30人のメンバー発表。「ヌッ…、ヌートバーって誰?」。ほぼ全ての日本人が初めてその名を耳にした25歳の若者でしたが、4カ月後には森永製菓とメガネのZoffと2社のテレビCMに出演するほど人気者になるとは…。誰もが想像しないストーリーでした。
野球の場合、日本代表入りの規定は、その国の国籍や永住資格を持つことに加え、親がその国の国籍かその国で出生しているかなど7つの条件の1つを満たすことです。米国生まれのヌートバーは、埼玉県出身の母・久美子さんが日本生まれのため、代表入りの資格を得ました。
決勝の相手は母国アメリカ
侍ジャパンに合流後は、持ち前のガッツ溢れるプレーや人懐こい笑顔で、日本国民をすっかり魅了。栗山監督やチームメートからもミドルネームのタツジをもじった「たっちゃん」の愛称で呼ばれました。
メガネのZoffのCMに出演し、店舗前に等身大のパネルも登場したヌートバー。共演した母の久美子さんのお茶目な姿も話題に!
そして3月22日のWBCの決勝は、自身の母国の米国vs母の祖国の日本。二つの国の間で、日の丸を背負う葛藤もあったに違いませんが、WBC5大会目にしてサラリと国境の壁を越えて誕生した日系選手は、今の時代だからこそ生まれたヒーローに映りました。
ラグビーの国際資格は?
一方のラグビーのジャパンの場合は国際ルールが異なり、直近の60カ月間(5年間)その国に居住すれば、代表の資格が与えられます。
日本代表は今年9月開幕のフランスW杯に向け強化合宿中ですが、現在の代表メンバー36人中、実に17人が日本国外で生まれた選手です。前大会ではニュージーランド出身で高校時代に来日したリーチ・マイケルが主将を務め、オーストラリア、南アフリカ、トンガ出身の選手をまとめました。他の競技以上に“多国籍化”が進むラグビーですが、今年のW杯には日本生まれの初の在日コリアン選手が誕生しそうです。
初のコリアン選手に期待
22歳の李承信(リ・スンシン)で、ポジションは司令塔のSO(スタンドオフ)。大阪朝鮮高校では主将として花園に出場。ラグビー強豪の帝京大に進むものの、大学1年末に退学して、リーグワンの神戸入り。昨年6月に21歳で日本代表にデビューし、正確なキックやパスを武器に、目下W杯への最終メンバー入りを目指しています。
母の夢を背負って
野球のヌートバーは明るいキャラクターの母・久美子さんも人気でしたが、李の母親は彼が小6のときに息子3人を残して癌で他界。その母の夢が「息子のワールドカップ出場」だったそう。
「在日コミュニティにも育ててもらい、日本人の方にも育ててもらった。国民のためというよりも自分を育てて支えてくれた方のために、闘いたい」と李は講演で語っていました。
「ONE TEAM」の名のもとに、日本のために闘うラグビー日本代表。初のコリアン選手が切り開く歴史も、しっかり目に焼き付けたいです。
東京・大手町発 マスコミ系働き女子のひとりごと Vol.59
(日刊サン 2023.7.7)
竹下聖(たけしたひじり)
東京生まれ。大学卒業後、東京の某新聞社でスポーツ記者、広告営業として15年間勤務後、2012年〜2014年末まで約3年間ハワイに滞在。帰国後は2016年より、大手町のマスコミ系企業に勤務。趣味はヨガと銭湯巡り。夫と中学生の娘、トイプードルと都内在住。
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