一昨年、庭のアボカドの木の剪定中に、乗っていたハシゴのバランスをくずし、2メートル強の高さから落下し、左下半身に大きな打ち身を負ったことがあります。この時、緊急入院したのですが、まず最初にCTスキャンで、次いで、MRIで詳細な断層撮影を行い、骨折箇所の診断を受けました。しかし、これらの検査では損傷状態が不明だったのか、最後に、可聴周波の音波検査で骨と筋肉の乖離具合を調べたのでした。この間、機器の上で横たわること1時間以上で、それは、自由な呼吸と身動きのできない“地獄”を味わいました。なんとか楽な検査はないものだろうか? と、自身が招いた「ハシゴからの落下」の油断を反省もせず、棚に置いて、恨んだものでした。
さて、今回紹介するのは、機器の上でじっと横たわり大きなリングの中を行き来するのではなく、立ったまま、もしくは、椅子に座ったままでも検査を行うことが出来る「CT(コンピュータ断層撮影機)」なのです。慶應大とキャノンメディカル社が共同で開発しました。検査の手順が簡略化でき、かかる時間も短縮、人間ドックなどで、「フレイル予防」が可能になるんだそうです。撮影時に装置を水平に保った状態で上下させる技術や、被験者が撮影中にふらつかないようにすることが課題でしたが、工夫を凝らして乗り越えたそうです。
効果は大きくて、検査手順が大幅に簡略化されます。横になって撮る従来のCTでは、医療者が検査室に付き添って被験者をベッドに寝かせ、位置を確認する必要がありましたが、今回の立位での撮影では所定の位置に立つだけで撮影が可能になり、付き添いも要らず、靴を脱ぐ必要もありません。
検査にかかる時間も大幅に短縮され、被験者との「完全非接触・遠隔化」での撮影が可能になり、コロナウイルスなどの感染症が流行している状況でも、関係者間の感染リスクを回避できるというメリットもあります。
腰痛や首の痛みなどの運動器疾患、骨盤底筋の緩みによる子宮や膀胱、直腸などの下垂を起こす骨盤臓器脱、脊椎間の神経の圧迫での脊椎滑り症などでの状況検査が明確になり、前立腺肥大症、排尿障害などの病態評価などに大変有効であることがわかったそうです。立った状態では肺の容積が10%程度大きくなることや、静脈の内径が大幅に変化すること、骨盤内の臓器が従来の想定よりも下垂することなど、既存のCTやX線検査ではわからなかった現象も判明し、今後の診断技術の進化への課題となっています。
この機械は、慶應大病院など数カ所に配備されているだけですが、身体の運動系の疾患の予防などに特に有効で、各種の関節症、骨盤臓器脱などを避けるために、骨格筋や骨盤底筋などの量を予め診断しておくことで、将来のフレイル予防(虚弱予防)を目指しています。特に、この立位CTを人間ドックで使うことを薦めようとしています。
No.357
となりのおじさん
在米35年。生活に密着した科学技術の最新応用に興味を持つ。コラムへのコメントは、 [email protected]まで
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