マンハッタンの空
ロックダウンに入ったときは、まだダウンジャケットにセーターを着ていたのに、気づけば今日は、Tシャツ。自宅に引きこもっているあいだに、時は進んで初夏へと突入した。
夏の訪れをつげるメモリアルデーウィークエンドも開け、通常なら長くてきびしい冬を乗り越えたニューヨーカーたちは、こぞってビーチや避暑地へと出かける時期だ。しかし、今年は通常とはまったくちがう。依然自宅待機がつづいているここニューヨークでは、あとしばらく辛抱がつづきそうだ。
友人知人にもまったく会えていないいま、唯一お隣のアパートに住む独身ニューヨーカーのベンだけはバルコニー越しではなしをする機会がある。毎日、午後7時に始まるエッセンシャルワーカーに向けての感謝、声援タイムに、お互い顔を合わせるからだ。かれこれ2ヶ月以上、1日も欠かすことなく毎日続いている。
お隣のベンがバルコニー越しに、「メモリアルデーウィークエンドはどこいくの~?」と、冗談まじりに聞いてきた。通常なら、恒例の会話だからだ。
そこで私は、「リビングルームからベッドルームいって、またリビングルームかな」と、これまた冗談まじりにこたえて笑い合う。何気ない時間だが、リラックスした癒しの時間だ。
あたたかくなるにつれて、また早く旅にでかけたい気分になりうずうずしている。コロナ前には大渋滞しているかのように、ひっきりなしに空を飛んでいた飛行機も、いまはほとんど見かけなくなった。
たまに大空を飛んでいく飛行機をみると思わず、「がんばれ」と心の中でつぶやいてしまう。なぜ「がんばれ」なのか…。最初は、じぶんでもよくわからなかった。しかし、なんどもこのことばを繰り返すうちに、私にとって飛行機とは、広い世界へと連れ出してくれるものであり、国と国、都市と都市、人と人、心と心とをつないでくれるかけ橋のシンボルのようになっているのだと気づいた。
いま、職を失ったニューヨーカーたちが続々とマンハッタンを離れていると聞いた。飛行機の中には、郷へと帰る人たちもたくさんいるのだろうか。空の上からながめるマンハッタンの街は、彼らにとってどのように映っているのだろうか。そんなことをぼんやりと考えながら、今日もバルコニーから、鉛筆のような超高層ビルに囲まれた、空をながめている。
やがて時がたち、また以前のように世界中からの観光客が押し寄せて活気あふれるマンハッタンになっているころ。いつものように、夢を叶えようとニューヨークへとやってくる人たちであふれていますように。
再びポジティブなエネルギーに湧く街の姿がありますように。そう願いを込めて…
私の旅ストーリー No.197
大森 千寿
NY在住。香川県高松市生まれ。アーティスト・作家・アートセラピスト・米国NLP協会認定マスタープラクティショナー・現代レイキマスター。NY・ハワイ・日本の3箇所にアートスタジオを構え活動。著書に、amazon電子書籍「ハワイに不動産を購入して人生10倍楽しむ方法」「ハワイで聞いた! 32通りの生き方(第一弾)」「人生の冒険」がある。NYで新しい扉を開く2日間プログラムやニューヨーカーと行く穴場ツアー、アート最前線ガイドなど開催中。 www.chizuomori.com ameblo.jp/adamwestonart