（前回まで）「世界をまたにかけて働く」ことを幼少からの夢としていた私は、意と反して損害保険会社に入社。順風満帆な生活も束の間、会社が経営破たん。その後の人生を切り開くため渡米しMBAを取得。メガバンク勤務を経て、新たなキャリア形成のため、渋谷にあるベンチャー企業の門を叩く。それから7年後、「幼少からの夢」を追いかけることを決意。2013年6月、遂に理想とするグローバル企業で働くこととなった。

　2013年6月初日。新しい職場に到着し、かねてから伝えられていたように受付で人事部の担当者を呼ぶと、一室に通され入社についての簡単なオリエンテーションが始まった。その後、一連の主要部門などへのあいさつ回りがあって、私が配属することとなる経営企画部に案内された。そこには、部長のN氏がパソコンに向かっていた。

　数か月前に、N氏と面接であったことが全ての始まりであった。以前も寄稿したが、面接を通して、同じ経営企画マンとして、Ｎ氏の実力を感じ取り、さらには同じような価値観を共有できそうと思え、面接が終了する頃には“この人と一緒に働きたい”と強く思うようになった。そしてその念願が今叶おうとしている。

　N氏は私に気付くと顔を上げて、「おお。待っていたよ」と隣の会議室に私を誘った。そして会議室で簡潔に経営企画部の業務内容と足元の課題を説明してくれた。喫緊の課題としては、数週間後に予定されている株主総会の対応であった。

　N氏は、非常に活動的なプレイングマネージャーである。席に居ることはあまり無い。私へのオリエンテーションも30分程度で済ませ、部で保有している各種情報・ドキュメントなどに目を通しておくように言うと、さっさと次のMTGに行ってしまった。経営企画部にはN氏の下に4名の部員がいた。1名は齢60近くに見える方。この方は中国事業のエキスパートであった。そして法務担当のこれまたシニアの方。さらにIR（投資家対応）をおこなっている中堅の男性と、広報を主に行っている若い外国人女性がいた。おそらくN氏が言及した株主総会の準備であろう、この人たちはみな忙しそうにしていた。そして、私の存在に気が付いてはいるものの、積極的に私に声をかけてくることはなかった。

　N氏から言われた情報などに目を通しつつ、横目で周りの忙しそうな人たちを見ていて気付いたことがあった。この人たちは確実に株主総会の準備に追われている。ただ、全く連携せず、個人個人がばらばらに動いている。フロア全体に目をやると、そこには人事部、経理部などあったのだが、何となくだが似たように個人個人がばらばらに働いているように感じた。即ち、コミュニケーション不足である。

　この会社は上場企業であるため多くの企業情報を外部に開示している。それらによると、非常に優秀な会社である。そこには虚偽は無いのだが、何かしらその優秀さが生んだ負の副産物があるように感じた。

　翌日以降も同様のことが続いた。必要以上に私に声をかけてくる人はいなかった。そしてその状況のまま数週間が過ぎて行った。