日刊サンWEB|ニュース・求人・不動産・美容・健康・教育まで、ハワイで役立つ最新情報がいつでも読めます

ハワイに住む人の情報源といえば日刊サン。ハワイで暮らす方に役立つ情報が満載の情報サイト。ニュース、求人・仕事探し、住まい、子どもの教育、毎日の行事・イベント、美容・健康、車、終活のことまで幅広く網羅しています。

デジタル版・新聞

My Destination

もう一つのストーリー

もう一つのストーリー

(前回まで)経営企画マンのスキルを一から学ぶために渋谷にあるベンチャー企業の門を叩いた私は、大手企業との提携や競合会社の買収などを経て東証マザーズ市場への株式上場を目指していた。ところが上場を目前にして、大株主の一社がネックとなって上場が不可能となる。その大株主との資本提携解消に向け、大株主の保有する当

社株式の受け皿にメガバンク時代の“戦友”が勤務する大手総合商社が名乗りを上げたが、そのライバル商社であるM社が半ば強奪するように、新株主の座に収まった。

 

 2007年10月上旬。臨時に開催された取締役会。問題となっていた大株主が保有する株式の移動先として、総合商社のM社が正式に可決された。取締役会終了後、議場にて茫然としていた私は、専務からの「一杯行かないか?」の声で我に返った。わが社の営業責任者である専務も私同様に、私のメガバンク時代の戦友が勤める商社との提携の成就に向けて力を注いできた。だから、M社によるこのどんでん返し劇には、私と同じくらい思うところがある。グラス片手に今回の一件についてそれぞれ思うところを吐露していたが、盃も進むと、専務から意外な言葉が飛び出した。

 「ISP社*の経営に専念しようかと思う」

 「今回の資本提携解消でISP社もあの株主からの影響力が無くなり、わが社グループの中核会社としての戦略性が高まる」と言い、続けて、「ISP社をわが社が後塵を拝している分野、即ちマーケティングの専門会社として再スタートさせ、サポートを得意とするわが社との相乗効果を高め顧客への価値を最大化してく。これが俺のプランだ」と力説した。

 専務の話は続く。「繰り返し考えてきたが、この戦略を実現するには二つの条件が必要だ。一つ目は、俺がISP社の社長業に専念すること。今預かっている本体の営業部隊の行く末が気になるが、今日の取締役会で全てが吹っ切れたよ」と真顔で言い切った。「二つ目の条件は何ですか?」と私が尋ねると、「君だよ。俺を支えてくれないか?」。思いがけない回答が来た。

 専務は、私の採用面接の時の面接官の一人。私が当社入社の意向を高めた理由の一つが専務の存在だった。以降、専務とは時に飲みに行き、お互いの仕事に対する価値観などを共有しながら親交を深めていった。その専務が一世一代の勝負に出る。今回の株式移転の一連の騒動で、最後の最後にM社を持ってきた社長のやり方を見て一種の失望感を感じてしまった私は、この専務からの話に聞き入った。

専務からはISP社の副社長として私が思うがまま腕を振るって欲しいと言われている。

 ベンチャー企業である当社は、仕事のやり方は身体で覚えるといった粗削りな部分な多かった。その稚拙な業務手法により経営課題に発展することも散見した。大手企業から来た私には特に顕著に映り、「私がやっていたら違う結果になっている」と思うことも多々あった。それがISP社というフィールドを利用して、自分の実力を証明できる機会をオファーされている。

 この話は専務と私の一存で決められる話では無いのだが、私の気持ちは固まりつつあった。

(次回につづく)

No. 192   第3章 「再挑戦」

Masa Kokubo

1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在はグローバル企業にて世界を相手に奮戦中。趣味はサーフィンとラクロス。米国生活は通算7年。

シェアする

返信する

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
Twitter
Visit Us
Instagram