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【My Destination】第3章 「再挑戦」IPO(株式上場)準備再び Final
(前回まで)「世界をまたにかけて働く」ことを幼少からの夢としていた私は、意と反して損害保険会社に入社。順風満帆な生活を送っていたが、急きょ会社が経営破たん。その後の人生を切り開くために渡米しMBAを取得。その後メガバンク勤務を経て、新たなキャリア形成のため、渋谷にあるベンチャー企業の門を叩く。その中で一旦子会社の副社長を経験、2009年4月1日付でベンチャー企業に復籍した。
前回まで寄稿してきたとおり、我が社にとって2回目のIPO申請は、幹事証券会社であったみずほインベスターズ証券のスキャンダルで中断に追い込まれた。今回は我が社に非は一切なく、かといってみずほインベスターズ証券に頼み込んでも再開は絶望的な状況である。この中断に対して我々会社サイドがどのような行き場のない憤りを持ったかは、読者の皆様にはお察しいただけると信じている。とは言え、我々もIPOの旗印を降ろすわけにはいかず、結局みずほインベスターズ証券の系列証券会社に幹事を依頼、IPO準備を再開することになった。しかし、その系列会社を選んだ理由であった“インベスターズ証券が実施した上場審査が引き継がれる”という条件も、程度の違いはあれど上場審査プロセスをもう一度やり直すことには違いなく、私率いるIPO準備チームにうんざり感が漂っていたことは否めない。
そんなある日のこと。業務時間終了後に私の片腕であり、経営企画部の副部長を任せている女性から、「ちょっとよろしいでしょうか?」耳打ちされた。会議室に入り席に着くと、彼女は目に涙を溜めて、「退職させて頂きたく思います」と絞り出すように声にした。完全に想定外の展開だった。過去、手塩に育てた部下が退職したこともあり、部下のモチベーションには相当の配慮をしてきたつもりだった。今までも何回か寄稿したが、この女性は私が入社した時から一緒に働いてきた古参メンバーで、私が子会社に出向していた期間は私の代わりに経営企画部を守ってきた一番信頼している部下だ。がゆえに、彼女が転職を考えることは無いだろう、と完全にたかをくくっていた。この彼女の申し出に対して、私は効果的なカウンターを打つことができず、後日改めて話そうということで、その場は一旦別れた。
一人になりあれこれと考えを巡らせたが、彼女の性格を知りすぎていた私は、彼女は退職について相当強い決意をしており、そう簡単に撤回はしないだろうと思った。それはその通りとなり、私の上司の常務だけでなく社長を動員するなどあらゆる手を尽くし慰留に努めたが、彼女の固い意志は揺るがなかった。
彼女が抜けた後、私の心にぽっかりと大きな穴が空いた。仕事だけでなく、心の支えにもなってくれていたのだ。ここまで彼女の存在が私にとって大きかったとは失うまで分からなかった。そして、この空虚感は穴埋めできずに時は流れていくこととなる。
この話には後日談がある。この時からちょうど3年後、私が転職した新天地で私のアシスタントを採用して良いとの許可が出た。真っ先に彼女に声をかけ、彼女も応じてくれた。そしてそれから今日まで9年の時が流れたが、今でも私を支え続けてくれている。今回のこの寄稿で、改めて彼女への感謝の気持ちを再確認したと言ってよい。
(次回につづく)
No. 215 第3章 「再挑戦」
Masa Kokubo
1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在はグローバル企業にて世界を相手に奮戦中。趣味はサーフィンとラクロス。米国生活は通算7年。
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