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メガバンク

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(前回まで)「世界をまたにかけて働く」ことを幼少からの夢としていた私は、意と反して損害保険会社に入社。順風満帆な生活を送っていたが、会社が急きょ経営破たん。その後の人生を切り開くために渡米。ついに悲願のMBAを取得し、日本に凱旋帰国した。

 

 数年前に日本で流行ったTVドラマ「半沢直樹」をご存知の読者は多いと思う。実は私はこのドラマを正視できない状態がしばらく続いていた。ところどころの描写が、実に銀行文化の特徴を的確に捉えていて、自分の実体験の中でもしんどいと思ったことや忘れてしまいたいと思っていたことまでフラッシュバックしたからだ。それくらい、私にとってメガバンクの洗礼は強烈なものだった。

 話し始めればキリがないが、メガバンクの洗礼は初日から始まった。俗に「軍隊」と言われる文化は隅々まで行き届き、外部から来た私にはとても新鮮に映った。例えばちょっとしたことだが、人の呼び方。「〇〇さん」はありえない。基本的に年下に対しては、男女問わず呼び捨てである。前職でも仲の良い先輩後輩間などでは見られた光景だったが、ここではそれが標準化している。また、部門間における上下関係というのもあるようだった。特に本社機構と現場(支店)。一つのエピソードを紹介しよう。

 リテール統括部という名前のとおり、リテールビジネスの頂点の部門の調査役という立場であった私が、本店ビルに構える旗艦店を仕事の一環で訪問した時の話である。その時は窓口業務を閉めた後で、200名近い行員がその日の業務処理に一心不乱に取り組んでいるところであった。私の姿を確認した副支店長が「リテール統括さん、お見えです。」と声を張り上げると、それまで机に向かっていたものが一斉に起立し微動だにしなくなった。私の要件はこのメンバー全員の手を数秒でも止める価値があるのか? と思うと背筋に冷たいものが走る感があった。当然ながら、私が立ち去る際も、号令と直立不動が行われたことは言うまでもない。それと軍隊的文化の中で印象に残っているのは、上への絶対服従である。私も一度地雷を踏んでしまったことがあり、当面の間は恐らくそれが理由で干されてしまった。俗に「一円でも合わなければ、合うまで帰れない」と言われる業務に対する正確性と執着心は本社機能でも求められた。何につけても確認を行い、隅々にいたるまでチェックを受ける。わずかでも間違えていればやり直しだが、指導の一環であろうか、どこが間違えているか教えてくれない場合すらあった。

 正直理不尽と思われることも多々あった一方、時には特権的な経験をしたりというメガバンクの生活であったが、この期間で積んだ経験はその後の私の人生において大きな強みとなる。時はメガバンク再編の時代。私の勤務先も例に漏れず、その再編の荒波にのまれて行くこととなるのだが、それはまた改めて紹介するとしたい。

(次回につづく)

No. 166   第3章 「再挑戦」

Masafumi Kokubo

ミネソタ州ウィノナ在住。1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在は全米最大の鎖製造会社の副社長を務める。趣味はサーフィンとラクロス。

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