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戦友

戦友

(前回まで) 経営企画マンのスキルを一から学ぶために渋谷にあるベンチャー企業の門を叩いた私は、大手企業との業務・資本提携や競合会社の買収などで大忙しであったが、その集大成が東証マザーズ市場への株式上場であった。ところが上場を目前にして状況は急転直下。上場のネックとなった大株主の一社との資本提携解消に突き進むが、その株主が提案する提携解消の条件が非常に難易度の高いものであった。

 

 「ご無沙汰しております!」懐かしい響きだった。電話の主はメガバンク時代の“戦友”であった。大手総合商社にヘッドハンティングされたとのことで、その挨拶の電話だった。彼の職場も青山で近かったこともあり、その日夕食を共にすることとなった。

 私より4歳下の彼は銀行員としては特異なキャリアの持ち主だった。入行して数年でNTTドコモに出向、私と出会う数か月前に銀行に戻ってきた。ゆえに彼の口癖は「銀行のこと全然知らないんです」。帰任後はかねてからの希望通り新規事業を担当しており、「なにか面白いことやりたいんですよね」といつもあっちこっち走り回っていた。銀行内における彼は異質であり同じく異質であった私とは自然に出会い、そして銀行内でのサバイバルゲームのために共生していくのだが、それは銀行という特殊な生態系の中では、いわば自然の摂理であったのかもしれない。我々は常に新しいことを求め、あちこちでハレーションを起こしていた。思い出深いのは、広告ビジネス構想をぶち上げた時であり、この時は行内だけでなく金融庁なども相手取って31歳と27歳の若い二人は怖いもの知らずに突き進んだ。こうして場数と共にお互いを認め合う仲となり、しだいに強い絆で結ばれ、“無二の戦友”となった。

 盃が進むと私の様子に感づいた彼が「小久保さん、何かお困りのようですね。何かあったのですか?」と切り出した。私は気心知れている彼のことでもあり、今、会社の大株主と資本提携解消の話を進めているが、その株の引受先がなかなか見つからず途方に暮れている、と正直に胸中を吐露した。

 「わが社でなんとかできるかもしれません」。しばらく私の話を聞いていた戦友が身を乗り出して沈黙を破った。先ほどまでアフター5を楽しんでいるサラリーマンのようだった彼の態様が、戦闘モードに一変している。何度となく見てきた懐かしい情景だ。「わが社は天下の総合商社ですよ。総合商社に出来ないことはないですよ」と彼。「そんなこと言ったって、お前まだ転職したばっかだろ?」と私。彼は「ま、見ててください。さ、飲み直しましょうよ」と、また陽気な彼に戻りその日は午前様となったのだが、その話はここまでとする。

 数日後。渋谷の私のオフィスに現れた来客をみて、改めて戦友の仕事にかける情熱を再確認した。目の前には彼の所属する金融部門の担当者、情報産業部門の担当者、そして出資する際に深くかかわってくる財務部門の担当者がずらりと揃っている。たったの数日間で、あの大商社の社内調整を見事やってのけたのだ。

 彼のほうに目をやると、“ほら言ったでしょ?”と言わんばかりの顔をしている。2007年9月初旬。また忙しい秋になる予感を肌で感じていた。

(次回につづく)

No. 189   第3章 「再挑戦」

Masa Kokubo

1995年中央大学法学部卒。損害保険会社勤務後、アイオワ州の大学院にてMBAを取得。その後、メガバンク、IT企業を経て、現在はグローバル企業にて世界を相手に奮戦中。趣味はサーフィンとラクロス。米国生活は通算7年。

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