紫外線が気になる季節に
三月は旧暦で弥生と呼ばれます。木草弥や生い月―草木がいよいよ生い茂る月―を縮めて弥生と呼ばれるようになったという説があるように、道を歩くと木々が若草色に芽吹いている姿を目にできるようになりました。我が家の庭もここ数日の暖かさで草木がほんわりと嵩が増し、春の景観に近づいてきたように感じます。春には紫外線が強くはなるため、日焼けを気にして既に帽子やサングラスなどを着用なさっている方もみかけます。
ところが紫外線の有用性を検証した論文があります。もともと紫外線によってサンシャインビタミンと呼ばれるビタミンDの活性化が骨粗しょう症の予防に寄与することは多くの論文で伝えられています。今回の論文はカナダ・クイーン大学のトロイ・ヒラー氏グループが行った「紫外線曝露が乳がん発生リスクを減少させる」との仮説を検証した内容の報告です。
この研究は太陽の下で過ごした時間と周囲の太陽の強さを推計値の利用によって分析しています。その結果生涯、あるいは成人期の夏の数か月間を1日1時間程度太陽の下で過ごすと、1時間未満グループに比べて乳がんリスクが減少したそうです。また、同じ条件では45歳以上のグループに比べて青年期の曝露の方がリスクの低下がみられたそうです。ハワイの蒼穹の下、青色の海と戯れることで乳がんのリスクが低下するのであれば楽しみと健康の一石二鳥かもしれませんね。
但し、強い紫外線は皮膚がんの原因とも言われています。私達の皮膚の色は表皮の下にあるメラノサイトと呼ばれる場所で作られるメラニンによって生まれます。日焼けによる黄金色の肌はメラニンが多く作られた結果だそうです。皮膚がんにはあまり質の悪いものは無いそうですが、メラノサイトから発生するメラノーマは極悪です。年齢を重ねた方の中には日光角化症、あるいは老人角化症と呼ばれる前がん状態の皮膚症状があります。これは長期に渡って強い日差しを浴びたことで表皮が悪性腫瘍化したものですが、極端に限られた場所で起こるため、がんとしては扱わないそうです。
皮膚がんは日本人の場合、白人に比べて有症率が少ないと報告されていますが、予防に越したことはないでしょう。乳がんリスクの低下と皮膚がんの発症を天秤にかけることはできませんが、乳がんはビタミンDの摂取によって予防が一定程度可能であるとの論文もありますので、太陽と戯れながらも安全性を確保することを想定すれば、直射日光は避けて日焼け止めを顔などには塗って、ビタミンDを摂取しながら時間を限定してはいかがでしょうか? サーモンなどはビタミンDが多いので食卓で楽しみましょう。できれば何も考えずに子供達のように砂浜を走り回りたいものですが。
神楽坂発 お身体へのお便り No.80
安田祥子 Akiko Yasuda
株式会社jast代表取締役会長
統括メディカルアドバイザー、フリーライセンスドクター、「農林水産省 産学共同プロジェクト」メンバー
最愛の娘の突然の死をきっかけに、健康は当たり前のものではなく、自らの手で守り育むものと痛感し、分子生物学や医学などを学ぶ。2013年(株) jastを設立し家庭と医療機関を結ぶ架け橋としてのアドバイザー育成に取り組む。これまで200件以上のクライアント様の健康・医療・日常生活のご相談に応えるとともに、教育部門JAMAで主席講師を務め分子生物学の観点から細胞に働きかける栄養素や最新の遺伝子研究など多岐に渡る講義を行う。数多くの機関誌への執、講演会、セミナーなども行っている。