今から始めるダイエット
「名月やわれは根岸の四畳半 正岡子規」
根岸は今でいう鶯谷~日暮里界隈を指す場所で、江戸・明治の時代には閑静な風情を求めて多くの文人墨客が居を構えたと言われています。正岡子規もその一人で、今も子規の住居は子規庵として一般公開されています。先日は我が家の庭からも神々しい中秋の名月を鑑賞することができました。
東京では新型コロナウィルス感染者数が急減し、人々の緊迫感が少し薄れてきたように思えます。緊急事態宣言はまだ続行中ですが、人出も増えつつあります。コロナ禍の自粛生活で「太った」という方は本来の日常生活に向けてダイエットを考え始めておられるのではないでしょうか。
ダイエットの成功報告の多くがスタイル中心のようですが、ダイエットの効果は外見だけではなく目に見えない身体の中に起こるのです。朝、起きた時に睡眠時間はとれているのに“何となく不調”を経験したことはありませんか? 少々古い研究ですが、カリフォルニア大学の睡眠と体内炎症マーカーの関係を調べた研究があります。
この体内炎症の多くは腹部や肝臓など臓器周辺につく脂肪(内臓脂肪)の脂肪細胞から分泌される炎症物質によって引き起こされます。こうした炎症は怪我などと違って痛みなどダメージ信号が私たちの脳に送られませんので、自覚症状がありません。けれど内臓脂肪が減らなければ、炎症は起こり続けて血管や細胞を傷つけ、最終的には動脈硬化などの病気を引き起こす原因ともなります。内臓脂肪を原因とした炎症は何となく不調の元ともなるのです。
本来、脂肪は飢餓を乗り切るために必要不可欠でした。けれど、人類が安定的に食糧を得られるようになり、カロリー過多の食品が溢れている現代の先進国では労せず過剰な脂質などを含む食材を手に入れることができます。脂肪細胞の中でも白色脂肪細胞は中が空洞になっていて、そこに大量の脂肪を蓄えることができる構造ですので、脂肪はドンドン溜まり膨らんでいきます。肥満の方では通常の白色脂肪細胞に比べてその直径は20倍ほどに膨らんでいるのです。
「倹約遺伝子」という言葉があります。この遺伝子を持つヒトの場合(日本人の約34%がこの遺伝子を持っているそうです)、持っていないヒトに比べて年間で約10㎏以上も太りやすいそうです。また、日本人は膵臓も弱いそうで、糖質を多く摂れば膵臓は頑張ってインスリンを分泌しますが、その状態が10年以上も続けば、その膵臓が疲弊してしまいます。つまり、日本人は太りやすい体質であり、肥満はお身体への負担が大きいのでダイエットが重要になるのです。
かといって急激に、過酷なダイエットはお薦めできません。次回は緩やかに無理なく始めるダイエットのお話をさせていただきます。ダイエットを始める方に覚えておいていただきたいのが、カロリー制限によってアンチエイジング効果も見込めるそうで楽しみですね。
神楽坂発 お身体へのお便り No.98
安田祥子 Akiko Yasuda
株式会社jast代表取締役会長
統括メディカルアドバイザー、フリーライセンスドクター、「農林水産省 産学共同プロジェクト」メンバー
最愛の娘の突然の死をきっかけに、健康は当たり前のものではなく、自らの手で守り育むものと痛感し、分子生物学や医学などを学ぶ。2013年(株) jastを設立し家庭と医療機関を結ぶ架け橋としてのアドバイザー育成に取り組む。これまで200件以上のクライアント様の健康・医療・日常生活のご相談に応えるとともに、教育部門JAMAで主席講師を務め分子生物学の観点から細胞に働きかける栄養素や最新の遺伝子研究など多岐に渡る講義を行う。数多くの機関誌への執、講演会、セミナーなども行っている。
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