国内の自動車大手が先月発表した8月の世界自動車生産量は、前年比17.4%減の計154万3千台になった。世界生産の減少は2カ月連続である。なかでも半導体を含む部品の不足は深刻で、日本国内の組み立て工場においても操業停止が相次いだ。トヨタ自動車は、国内6工場で延べ21日間操業を止め、海外の生産は1年ぶりの減少となった。HONDAは三重県内の工場を延べ7日間止め、国内生産が4割減ったことになる。そして10月上旬も国内生産は3割減が見込まれている。
今や自動車に搭載が一般化している、カーナビも品薄になっている。都内の大手メーカーの販売店では、納車までの期間が通常の1か月から2-3カ月程度に伸びている。要因の一つがカーナビの不足であるという。販売店の経営者の話によると「お客さんに何とか理解してもらい、カーナビは後で追加し、その分倍返しを行いたい」と言うほどである。
ここで、以上の自動車業界の異変の原因をみてみよう。周知のように、今時の車にはどれも数多くの電子部品が組み込まれている。これらの部品は、大部分が発展途上国に委託生産されている。ところが、昨年来コロナ禍は、これらの国々でも猛威を振るっているため、工場が生産停止に追いこまれるケースが多くなった。例えば、タイの工場では集団感染が広まり、7月後半から操業を一時停止せざるをえなくなった。ベトナムの工場でも生産のペースが大幅に落ちているという。そのため、日本の自動車工場への部品供給が予定通りにいかなくなってしまう。部品が一つでも足りないと、自動車は完成しない。
他の部品メーカーでも東南アジアを中心に、工場の操業停止が目立つ。ダイハツ工業の場合は、国内の四つの完成車工場の稼働を一時停止せざるを得ないと公表した。現地の部品工場では感染者が一定数に達すると、急に生産が止まることがあり、先行きが見通せないというのである。自動車メーカー各社は10月以降の増産を目指す予定というが、半導体を含め部品の安定供給のめどは立っていない。一方、部品メーカーとしては原材料価格の上昇もあって経営的に厳しい、と嘆く経営者もいる。
部品の中でも、半導体調達の重要性は、以前から分かっていたことである。トヨタは10年前の東日本大震災で、その確保が困難になったことを教訓に、重要な部品については在庫を手厚くしてきた。しかし、ここにきてトヨタでさえ半導体などの在庫が不足気味になっていると言うのである。トヨタのある幹部は「半導体の需給逼迫が続いており、代替拠点にも余剰生産の能力がない。穴埋めに一部、限界が出てきている」と話す。
以上の様な部品供給不足の原因により、新車販売の現場でも異変が起きているのである。車種によっては納車まで半年以上かかるケースもあるという。
一方、新車が買いにくいため、中古車も値上がり傾向にある。首都圏のHondaの販売店では9月から10月の納車のスケジュールが遅れている。スポーツ用多目的車(SUV)は人気もあって、納車まで1年以上かかることもあるという。この様に客に納期を約束できないのが販売店にとってとてもつらい、という。
今どき ニッポン・ウォッチング Vol.217
早氏 芳琴