「岸田文雄って誰?」中年女性が、テレビの画面を見て、驚いてこう呟いたのも不思議ではないだろう。確かに、岸田文雄は今回の自民党総裁選で河野太郎、高市早苗と野田聖子と共に、自民党総裁を争った時に、初めてテレビに度々顔を見せたのであり、自民党の大派閥の長でありながら、普段はめったにテレビに登場することがなかった岸田氏が、自民党の総裁に選ばれたことを多くの日本人が、驚いたのは無理ないことである。その岸田文雄が新総理となって、10月4日に新しい内閣を発足させ、この多難な時代に日本を背負ってゆく大任が任されることとなった。
めでたく総理として組閣した自民党の岸田新内閣が、「ご祝儀相場」にも関わらず、支持率が50%に満たないのに、関係者は驚いたのである。このような低い支持率は一体何なのだろうか、と関係者が大変驚き焦ったのも無理ないことであろう。
あるベテランの政治評論家が先ず指摘したのは、過去の長い安倍・菅政権に欠けていた自民党政権は、ただ法解釈の一方的な変更や「数の力」を頼りに野党の異論に耳を傾けず、考え方の異なる人を排除する姿勢が目立っていた、と指摘する。
岸田新内閣では、閣僚20人のうち13人が初入閣の新人であり、新設の経済安全保障担当相に抜擢された古林鷹之氏ら3人は大臣の当選数としては少ない衆院当選3回で、そのうち2人が若い40代である。他の閣僚には、総裁選で支援を受けた主要派閥への配慮や、入閣待機組の起用もあった。総じていえば老・壮・青のバランスに腐心し、「中堅若手の登用」を果たしているのは良かったが、党役員の人事では、実力者を軸にした布陣が目立ったのが特徴的であった。
例えば、安倍・菅両政権で一貫して副総理兼財務相だった麻生太郎氏を副総理に、党運営の要である幹事長には、安倍、麻生両氏の盟友甘利明氏が起用された。新政権発足後、直ちに行うと宣言された衆院選の公約づくりを担う政調会長には、安倍氏の全面支援によって総裁選で善戦した高市早苗氏を起用した。政府と党の力関係を背景に、安倍・菅政権で顕著だった官邸主導の政策決定に変化が生じる可能性もある、と指摘する評論家もいる。
政府と党は「車の両輪」であるべきなのにバランスが崩れてしまったとして、あるべき姿は、安倍長期政権で顕著であった「政高党低」ではなく「政高党高」であるべきと、主張する者もいる。さらに、ワクチン担当の新閣僚が初入閣の山際大志郎氏に代表する若手・中堅三閣僚に分担させるようにしたのも心配、と指摘する向きもある。
他方で、野党の多くからは衆議院議員の選挙を、内閣解散から投開票日までわずか17日間に設定したのも、戦後最短であるとする不満が噴出した。
我が国は自由・民主主義の国家である。国民の政治に対する意見や要望は憲法で保証されている。そのため新しい政権の誕生にあたり、国民は自分の考えを率直に表す自由があるのである。間近に迫る衆院選はその絶好のチャンスとなる。政府・政権がそれら世論の意見を謙虚に受け止め国政運営に勤めれば、必ずやより良い国家が築かれることを、国民は期待したいところである。
今どき ニッポン・ウォッチング Vol.216
早氏 芳琴