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今どきニッポン・ウォッチング

「銭湯」の閉店を惜しむ

「銭湯」の閉店を惜しむ

 日本人のお風呂好きは、海外でも有名である。日本の国土は狭く、人口が多いために、日本人の居住環境は決して快適ではないと思われているが、決してそうでもない、と言えよう。その証拠となる事柄として、新築建設の規準が挙げられる。

 日本で新築の家を建てるために金融機関からの融資を受けようとするならば、その新築の住宅には、必ず浴室、トイレと台所などの生活設備を備えていなければ、住宅として認められず、金融機関からの住宅建築の融資を受けられない。

 言い換えれば、日本における新築の住宅には、どんなに小さな家屋であろうと、必ず浴室、トイレや台所などの最小限とする備品を備えてあると言うことになる。勿論、一部の富裕層は金融機関からの融資を必要としないのでその限りではないが、富裕層の建てる新しい豪邸に、まさか浴室、トイレや台所等の設備を必要としないことは、ありえないことである。 

 要するに、今日の日本人の家屋の絶対多数には、必ず自家用の浴室を備えているということである。そのため、近年まで町々にあったレトロ的な公衆浴場の「銭湯」が、徐々に消え去っていったのである。 

 

 「銭湯」が東京から消えてしまったのには、それなりの解決不可能な問題があったからである。その主な問題とは、少子高齢化による影響である。多くの銭湯経営者は、その大部分が先代の後を継いできた人達であるが、彼らも既にかなりの高齢になっており、後を継ぐ若者がいなくなったため、とうとう閉店を決意せざるを得なくなったのである。 

 銭湯の経営者は毎日が重労働の連続であり、朝から各地の工場や倉庫を回って荷造り用だった廃材を集め、午前中からボイラーで湯を沸かさなければならない。客は高齢者が多いため、営業中は特に高齢者の体調の急変に注意を払わなければならない。閉店後の夜10時半頃からは、約一時間をかけて風呂場の掃除をしなければならない重労働が待っている。今時の日本の若者がこのような仕事に憧れることは、まずあり得ない。 

 

 銭湯が過去の長い歳月において、庶民に喜ばれ、歓迎されてきたのは、日本経済がまだ豊かではなく、人々の居住環境が貧弱であったからであろう。今日に至ってもなお、街の公衆浴場-銭湯の閉店を惜しむ「銭湯愛好ファン」がいるのは、「銭湯」をただの体を清潔にする場だけとは考えず、そここそが彼らの大切な「社交場」であると思っているからである。近所に暮らす銭湯の常連客が、もちろん男女別ではあるが、いわば裸の付き合いで歓談できる手軽な楽しみの場は「銭湯」であり、「湯銭」こそが貴重なコミュニティの場であったと言えよう。 

 

 時代の変化に伴い、「銭湯」は消え去る運命になったが、銭湯愛好家たちにとっては、そこでの楽しかった思い出が、永遠に消え去ることはないであろう。

今どき ニッポン・ウォッチング Vol.176

早氏 芳琴

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