ニワトリの形のキッチンタイマーと出会ったのは、かれこれ20年以上前のことだった。赤いトサカに黄色い口ばし。とぼけたような素朴な表情。身体をぐるりと回すと、タイマーが始動する仕組みになっている。東京の雑貨屋の店先で、ニワトリタイマーはひっそりと佇んでいた。
欲しい。と思ったけれど、キッチンタイマーを使う予定はなかった。急ぐ旅路でもない。また今度でいいか。その時は、それで終わりだった。
時は流れて10年前。私はハワイ島に引っ越した。夫婦で飲食店を始めるにあたり、キッチンタイマーを購入することになった。ついでに自宅用のキッチンタイマーも買うことにした。私はリクエストを出した。
「キッチンタイマーを買うなら、ニワトリの形のやつが欲しい」
私はあの素朴なニワトリの姿が忘れられなかったのである。夫も了承してくれた。
だがしかし、夫が買ってきたのはフクロウの形のキッチンタイマーだった。鳥ではあるけれど、ニワトリではない。しかもそのフクロウは水色であり、アニメキャラ的な表情をしている。私は愕然とした。
「あれ、鳥がええのんちゃうかったっけ?」と夫は悪びれずに言った。というわけで、我が家ではフクロウの時代が始まった。店のキッチンタイマーは何個買い替えたか分からないが、フクロウは元気だった。何度か落としたけれど壊れなかった。
2022年5月、とうとうフクロウが息をひきとった。10年にわたるフクロウ時代は、ようやく幕を閉じたのである。長かった。私の心は決まっていた。今度こそあのニワトリを手に入れる。
ニワトリ型のキッチンタイマーは定番商品らしく、アメリカでも日本でも同じデザインのものが流通している。私は懐かしのニワトリを自ら選び、オンラインで注文した。
だがしかし、我がニワトリは我が家に届かなかったのである。
どういうわけか、出品者が出荷をキャンセルしていた。故にお金も引き落とされていなかった。なぜこんなことが起こるのか、神の意図が分からない。
「縁がないんやな」と夫。「20年我慢できたんやから、もういらんのんちゃう?」
私はニワトリタイマーを再注文するべきなのだろうか? 悩む。2か月経過した現在もまだ悩んでいる。オンラインショッピングでまた行方不明にでもなったら、私は立ち直れないかもしれない。日本に帰国するときに、実物を見て購入した方が良いのではないだろうか。
【今回の教訓】
その1 一目ぼれをしたら迷ってはいけない。
その2 注文を人にまかせない。
その3 「とりあえず」のつきあいは、恐ろしく長期化する可能性があるので注意。
No.248
相原光(アイハラヒカル)
フリーランスライター&翻訳
群馬県出身、早稲田大学卒業。2008年結婚してハワイに移住。夫は寿司シェフ。2012年4月双子猫パンとマーチを連れてハワイ島に引越。8月に玄米寿司とムスビの持ち帰り店「DRAGON KITCHEN」を夫婦でヒロにオープン。現在ライター兼寿司屋のお手伝いとして活動中。姉は漫画家の花福こざる。
like us on facebook “Dragon Kitchen Hilo”