私が二胡という楽器に出会ったのは、オアフ島カネオヘの平等院テンプルだった(日本の平等院鳳凰堂を模したものです)。かれかこれ10年以上前になるだろうか、土産物売り場でアジアの趣あふれる曲が流れており、それが二胡の曲だった。夫はこの演奏をいたく気に入ってしまい、その場でCDを購入。あとで分かったのだが、このCDは現役ナンバーワンの二胡奏者の作品だった。どおりで素晴らしかったわけだ。
二胡というのは中国の弦楽器である。その名の通り弦が2本。フレットはなく、弓で奏でる。弓を使うため、滑らかで長い音が出る。弦楽器といっても、音色はギターよりはバイオリンやチェロに近いと思う。また、弦が2本しかないので、和音は出せない(はず)。基本的にメロディーを奏でる楽器である。夫は以前から二胡に興味があったらしく、「二胡が欲しい」と言い出した。「いつか叶えたい夢」なのだろうと判断し、この時はそのまま聞き流しておいた。
時は流れて2022年3月17日。「二胡が欲しい」と再び夫が言い出した。今回は本気である。なんとクレイグスリスト(インターネットの掲示板)で、中古の二胡を発見したらしい。お値段は100ドル。しかも出品者は我が家から車で数分のところに住んでいるという。
ここで妻としてはどう対応するべきか? 「どうせすぐに飽きるのだから、無駄遣いするな」と言うのが一般的なのではないかと思う。だがしかし、私はこういった一般常識に著しく欠けている。100ドルというのが高いのか安いのかも、この場合はまったく分からない。それに、ホンモノの二胡というのを見てみたい。反対する理由は特に思いつかなかった。
夫はすぐに連絡を取り、1時間後には二胡を手に入れて帰ってきたのであった。早っ!二胡の現物は、思ったよりもかなり小さかった。三味線を小型にしたような感じである。ボディは手のひらくらいの大きさの六角形で、表面に蛇の皮が貼ってある。弦はスチールで、本当に2本しかない。なんというか、手作り感満載である。
YouTubeの初心者レッスンに従って、夫はすぐに音を出し始めた。首を絞められた動物の叫び声のような音が響く。これはかなりの騒音である。だがしかし、この段階を乗り越えないと弾けるようにはならないことは明白である。そして、滑らかな音が出るまでにはそれなりに時間がかかるということも、容易に想像できる。幸い、我が家は1軒の敷地が1エーカー(約1200坪)という住宅街にあるため、気にせず音を出せるが、都市部でこの音量の楽器を練習するのはかなり厳しいと思う。ヴァイオリン奏者になれる人というのは、自宅に防音の練習室が作れるような種族なのだろう。
即座に飽きるかと思いきや、意外にも夫の練習は続いており、数日前から曲の練習に突入した。弓も買い替え、やる気満々である。そして予想外なことがひとつ発生。夫はギターが上手くなってしまったのである! 上達には何が作用するか、分からないものですな。というわけで、更なる上達をお祈り申し上げます。
No.242
相原光(アイハラヒカル)
フリーランスライター&翻訳
群馬県出身、早稲田大学卒業。2008年結婚してハワイに移住。夫は寿司シェフ。2012年4月双子猫パンとマーチを連れてハワイ島に引越。8月に玄米寿司とムスビの持ち帰り店「DRAGON KITCHEN」を夫婦でヒロにオープン。現在ライター兼寿司屋のお手伝いとして活動中。姉は漫画家の花福こざる。
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