10月に禁酒を始めてから5か月。我が家で変わったことといえば、甘いものを食べるようになったこと。身体が糖分を欲しがっているのか、夫婦共にお菓子を食べるようになってしまった。特に気に入ったのが、チョコレートチップクッキー。クッキーへの愛情がゼロだった夫は、人生で初めてクッキーの素晴らしさに気づいたらしい。わたしは元々クッキーのファンだったため、二人でバリボリ食べている。夫は料理人であるため、当然の帰結として、クッキーを焼いてみることになった。
チョコレートチップクッキーとは、アメリカでは最も人気のあるクッキーのひとつであり、作り方も至ってシンプルだそうな。夫が選んだレシピには、準備10分・焼き時間8分と書いてある。え、そんなに短時間でできるの? ホンマかいな。
材料は、小麦粉・砂糖・バター・卵・ベーキングパウダー・塩・バニラエッセンス・チョコレート。こやつらを混ぜて、成型して焼くだけ。砂糖はブラウンシュガーを使うのが王道らしい。独特の風味がつき、焼き色が美しく仕上がるとのこと。注意は、バターを室温に戻しておくことくらい。
このクッキーは、生地を鉄板に落として焼くだけなので、型抜きは不要。スプーンやアイスクリームのディッシャー(アイスクリームを盛り付ける時に使う器具)を使うのがアメリカでは一般的。手で丸めて団子にしても良し。我々は団子を選択した。鉄板に25個のクッキー団子を並べて、一抹の不安に襲われる。これ、ちゃんと平べったくなるの? 説明には「自然に平らになるので、団子のままでええ」と書いてある。私ならば即座に自己判断で平らにしてしまったと思うが、夫はレシピに忠実に従った。いきなり応用せず、最初はレシピ通りに作るというのは、料理の基本らしい。
レシピの予言通り、たったの8分で見事に焼きあがる。団子はちゃんと平らになっていた。そのまま2分余熱を通してから、網に移動。アツアツを試食してみたところ、大変美味。ちょっと柔らかめな仕上がりである。固めが好きな場合は、焼き時間を長くするべし。というわけで、夫の人生初クッキーは、大成功となった。2月24日のことであった。
ところで、アメリカ発祥の3大料理といえば、ハンバーガー・アップルパイ・チョコレートチップクッキーである。チョコレートチップクッキーが誕生したのは第二次世界大戦の数年前。けっこう新しいお菓子なんだよね。チョコレートクッキーを作ろうとした主婦が、チョコレートを湯せんで溶かすのが面倒だったため、砕いて生地に混ぜ込んだのが発祥と言われている。焼いたらチョコレートが溶けるだろうと思っていたら、溶けなかったのである。
「なんと素敵な発祥秘話!」と思っていたのだけど、このコラムを書くために一応調べなおしたところ、どうやらこの小ばなしは 都市伝説の類だったらしい。え、そうなの? 実際は、高名な料理人が生み出したデザートだったそうな。ちょっとがっかり。面倒くさがってそのまま焼いてしまった婦人を、我が魂のご先祖様として、密かに慕っていたのに!
No.240
相原光(アイハラヒカル)
フリーランスライター&翻訳
群馬県出身、早稲田大学卒業。2008年結婚してハワイに移住。夫は寿司シェフ。2012年4月双子猫パンとマーチを連れてハワイ島に引越。8月に玄米寿司とムスビの持ち帰り店「DRAGON KITCHEN」を夫婦でヒロにオープン。現在ライター兼寿司屋のお手伝いとして活動中。姉は漫画家の花福こざる。
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