10月に入り一気に冬へ向かってエネルギーがシフトしたニューヨーク。週末にはアパートの冷房が暖房へと切り替わり、外気温は9度まで下がりとにかく寒い! 街ゆくニューヨーカーたちはすっかり冬の装い。コートやダウンジャケット、スカーフやブーツ、センス抜群な人がひときわ目立ち街のおしゃれ度がどの季節よりも増してみえる。
ある日のこと。自宅から徒歩10分ほどの創作スタジオへと向かっているとき。ふと目をやった先に白と赤の棒を持った目の不自由な方の姿が視界に飛び込んできた。前日に雨が降ったことで歩道のあちこちには大きな水たまりができていた。目の不自由な男性が、まさにその水たまりに向かって足を踏み出そうとしていたのだ。
わー! 危ない! そう心で叫び慌てて彼の元へと走ろうとした瞬間、隣にいた夫アダムの方が先に走り出していた。危機一髪でセーフ。男性はお礼を言いながらニコニコ。これからどこへ向かうのか尋ねたところ、行き先が一緒だったので私たちは3人で一緒に歩くことに。夫の肩に手をおき、横断歩道を渡る。その姿を後ろから眺めていた。
マンハッタンは四方八方から車や電動自転車、タクシーやら電動スケボーやらありとあらゆるものが容赦無く飛び込んでくる。目が見えていてもかなり危険な街だ。現にわたしは青信号を横断中、後ろから信号無視して突っ込んできた車に跳ねられたことがある。
しばらくの間、世間話を楽しんだ。彼の名前はトム。18年前にLAからNYに引っ越して来たそうだ。今は、ずっとやりたかったお仕事に付いていること、同僚たちがとってもいい人たちで幸せだということ、家族と仲良くハッピーだということ、彼の口からは次々とハッピーと感謝の言葉が溢れ出す。そして終始ニコニコ笑顔。心の豊かさが滲み溢れ出していた。
もしも、わたしが目の見えない世界で生きていたとしたら…。トムのように感謝の気持ちを口に出したりできるだろうか。やりたいことを見つけて引越しまでできるだろうか。わたしなら天を恨んで家から出れずに引きこもって一生を送っているかもしれない。トムの在り方にわたしは深く衝撃を受けた。生きる力をいただいたのだ。
あたりまえのように美しい景色を見て、好きな人の顔が見れるということがどれほど幸せなことなのだろうか。それなのに、今、もうすでに幸せがたくさん「ある」というのに不平不満ばかり言ってはいないだろうか。トムが見せてくれた世界はあまりに素敵だった。
人生について考え直す大事な機会をくれた出来事だった。
私の旅ストーリー
大森 千寿
NY在住。香川県高松市生まれ。アーティスト・作家・アートセラピスト・米国NLP協会認定マスタープラクティショナー・現代レイキマスター。NY・ハワイ・日本の3箇所にアートスタジオを構え活動。著書に、amazon電子書籍「ハワイに不動産を購入して人生10倍楽しむ方法」「ハワイで聞いた! 32通りの生き方(第一弾)」「人生の冒険」がある。NYで新しい扉を開く2日間プログラムやニューヨーカーと行く穴場ツアー、アート最前線ガイドなど開催中。 www.chizuomori.com ameblo.jp/adamwestonart
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