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コラム 神楽坂発 お身体へのお便り

脂質のお話―脂質は悪者ですか(1)

 12月に入ると街はクリスマス仕様となります。この2年間コロナ禍により自粛生活を余儀なくされた日本ですが、今現在は感染者数が東京で6人、全国的にも100人台と急減し、活気も戻ってきました。12月に街の広告にはX’masと書かれたものをみかけます。商業ベースの標記と考えておりました私が無知で、実はXは24番目のラテン文字、ギリシャ文字に由来しているそうで、英語表記のChristmasより起源は古いと言われています。

 クリスマスには家族が集まってキリストの降誕を祝います。その折、七面鳥など豪華なメニューで食卓が賑わいますが、脂質などの食材が多く使われます。動脈硬化などの原因の一端とされている脂質で健康志向の方には敬遠されがちですが、本当に脂質は悪者なのでしょうか?

 脂質には重要な役割が多くあります。脂質はタンパク質や糖質と並んで三大栄養素であり、エネルギーを産み出す力は三大栄養素中圧倒的に高いのです。タンパク質、糖質が1g/4kcalに対して脂質は9kcalもあります。また、脂質は細胞膜やホルモンの材料となり、体温を維持したり、脳や神経細胞を健康に保ったりと大忙しです。そのため、脂質を悪者と決めつけて適切に利用しなければ、当然身体は不調をきたします。

 特に魚油などに含まれるオメガ3系脂肪酸など多価不飽和脂肪酸と呼ばれるグループは体内では合成できませんので、食事などから摂る必要がある必須脂肪酸です。一方で危険な脂肪酸もあります。すでにご存知の方も多いと思いますが、マーガリン、ケーキ、クッキーなどの焼き菓子、パン、スナック菓子などに利用されるトランス脂肪酸は液体油脂に水素を添加し、酸化しにくい(日持ちがよい)人工油脂です。トランス脂肪酸の摂取によって悪玉コレステロールが増加し、善玉が減少することで動脈内膜に炎症が起こりやすくなり、結果として動脈硬化へと進む可能性があります。

 米国医師学会ではトランス脂肪酸を含む油から菜種油やオリーブオイルに切り替えるだけで3万~10万人の早死を防ぐことができると報告していますので、どういった油を摂るかは重要です。また脂質がダメなのではなく、脂質の種類をバランスよく摂ることが大切なのです。

 オメガ3系:植物油などに含まれるオメガ6系の理想的なバランスは2~4程度と言われていますが、実際には日本人の場合、1:20以上との報告もあります。比較的魚を食べる日本人でもそうですので、あまり魚を食さない国ではその開きがもっと大きいのではないでしょうか? 脂肪酸の働きを簡単に捉えれば、「アクセルを踏むオメガ6、ブレーキはオメガ3、理想のバランスは2:1」と覚えておくと便利かもしれません(このお話は次回に続きます)。

 読者の皆さまにはお健やかで楽しいクリスマスと来たる新年をお迎えくださいますようお祈り申し上げます。

神楽坂発 お身体へのお便り No.100

安田祥子   Akiko Yasuda

株式会社jast代表取締役会長 

統括メディカルアドバイザー、フリーライセンスドクター、「農林水産省 産学共同プロジェクト」メンバー

最愛の娘の突然の死をきっかけに、健康は当たり前のものではなく、自らの手で守り育むものと痛感し、分子生物学や医学などを学ぶ。2013年(株) jastを設立し家庭と医療機関を結ぶ架け橋としてのアドバイザー育成に取り組む。これまで200件以上のクライアント様の健康・医療・日常生活のご相談に応えるとともに、教育部門JAMAで主席講師を務め分子生物学の観点から細胞に働きかける栄養素や最新の遺伝子研究など多岐に渡る講義を行う。数多くの機関誌への執、講演会、セミナーなども行っている。

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