9月なかば、遅い夏休みをいただき、南房総にまいりました。房総はすっかり秋の気配で、曇り空を映して海は一面灰色でした。連なる山々も新緑の頃とは異なり、深い緑で覆われそこに暮らす命を侵入者から守るように見えます。南房総は海沿いの道に漁港や漁師町、リゾートマンション、別荘地、ホテルなどが立ち並び観光地の様相を呈していますが、山が間近に迫り全体を俯瞰すれば、人々の営みが許されているのは海と山に抱かれたほんの僅かの土地だけのようです。晴れた夜空を見上げれば、灯りの多い東京では見ることができない星の煌めきが目に映りこみます。一時よく聞こえていたキョン(特定外来生物に指定されている小型の鹿)の鳴き声は聞こえず、害獣と言われていますが少し寂しい気がいたしました。ヒトの営みと他の生命が同じ地域で共存するのは難しいのでしょうか。
私たちヒトは地球に暮らす生命体の一種です。そもそもヒトは生物学的にどのような特徴を持つ生命体なのでしょうか? 近縁種のチンパンジーやボノボとどこが異なるのでしょうか?
人類最大の特徴は「直立二足歩行」をすることにあります。単純に二足歩行をする動物ならば、鳥類やカンガルー、古いコマーシャルに使われたエリマキトカゲも高速二足歩行でしたね。二足歩行グループとヒトとの決定的な違いはヒトでは“直立”二足歩行をする点です。40億年以上続く進化の歴史の中で直立二足歩行をする種は人類以外にはいないのです。鳥でさえ、空を飛ぶ能力が4回も進化しているのに、ヒトの直立二足歩行は一度も進化していない、唐突に表れたとも言えます。直立二足歩行の人類は姿勢が悪いと自律神経系などに乱れが生じ、不快な症状が多様に表れます。
もう一つヒトには際立った特徴があります。ヒトの犬歯は小さく短いことが分かります。犬歯の目的は縄張りを守ったり、群れの雌を取り合ったり、あるいは餌を手に入れたりするときに必須のアイテムなのです。犬歯(牙)は動物が戦って生存するために必要不可欠なのにヒトには牙が無い。ということは、人類は本来平和を希求する種だということが分かります。
けれどヒトは道具を作り出し、生存のための便利さを手に入れた代償に他種に無い、遥かに残酷な殺人や大量虐殺を繰り返す愚かな行為が長い歴史に刻まれてきました。紀元前3500年(最古は5500年と言われています)突如として現れたメソポタミア文明の初期を担うシュメール文明は数学、天文学、美術、建築、医学、法律、文字など現代の社会機構の全てを備えていました。残念なことにこの時代でさえ、シュメール人は軍隊を装備し戦車まで発明していたのです。
過去の歴史を鑑みると一時的に繁栄した文化や国は必ず滅びています。環境も含めて多くの方がヒトという種には牙が無いことを知り、ヒト本来の穏やかさや優しさと自然との共生に思いを寄せていただければ幸いです。
神楽坂発 お身体へのお便り No.110
安田祥子 Akiko Yasuda
株式会社jast代表取締役会長
統括メディカルアドバイザー、フリーライセンスドクター、「農林水産省 産学共同プロジェクト」メンバー
最愛の娘の突然の死をきっかけに、健康は当たり前のものではなく、自らの手で守り育むものと痛感し、分子生物学や医学などを学ぶ。2013年(株) jastを設立し家庭と医療機関を結ぶ架け橋としてのアドバイザー育成に取り組む。これまで200件以上のクライアント様の健康・医療・日常生活のご相談に応えるとともに、教育部門JAMAで主席講師を務め分子生物学の観点から細胞に働きかける栄養素や最新の遺伝子研究など多岐に渡る講義を行う。数多くの機関誌への執、講演会、セミナーなども行っている。
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