七月は旧暦で文月と呼ばれます。文月の由来は七夕に詩歌のやりとりをしたり、書籍を夜風に当てて劣化を防いだりしたことによるものだそうです。PCなどで書籍を購入するシステムがすっかり定着し、コロナ禍が追い打ちをかけた結果、大型書店をはじめ、街の本屋さんの閉店が続いています。手紙を書くこともスマホなどで代用できるため、文を認める機会も激減しました。本屋さんに入店した時の紙の香りや好みのタイトルを見つけた時の高揚感、文を認めたあとに何度も読み返し、書き直した緩やかな時の流れを経験する若い世代が減っていくのは残念な気がいたします。時の流れが文化の喪失に繋がらないことを願うばかりです。
ハワイではコロナ禍が一段落し日常生活が戻りつつあると報道されています。楽しみにしていた外出時に突然腹痛に襲われトイレに駆け込むのでは興覚めですが、日本ではそんなことが続くストレス腸が幅広い世代で見受けられます。ストレス腸は下痢や便秘などを何度も繰り返し、場合によって数か月も継続することがありますので、腸に異常があるのでは、と心配になる向きもあると思います。
このストレス腸(過敏性腸症候群)は潰瘍や炎症、腫瘍などの病気があるわけではなく、緊張や不安などストレスが引き金で起こると伝えられています。ストレス腸のはっきりした原因は解明されていませんが、ストレスのある状態は消化管の蠕動運動などに異常が起こりやすく痛みを感じる知覚過敏になりやすいそうです。実は腸には痛みを感知する知覚は無いのですが、腸と脳は互いにコミュニケーションを取り合っているために腸管神経叢と脳の相互作用によって痛みが起こるそうです。
現在、ストレス腸はストレスが直接の原因ではなく、自律神経やホルモンを介した腸脳相関によって起こるのではないかとも考えられています。ストレス腸によって日常生活に支障がある場合には市販の下痢止めを利用してもよいそうですが、下痢止めを常用すると自然な排便が困難になる可能性もあり、根本的な解決には繋がりませんので、ストレス緩和に繋がる睡眠や休息を見直しましょう。また、緊張や不安を感じた場合には腹式呼吸をすることも一案です。
細菌やウイルス感染による腸炎後の発症では腸内細菌叢の乱れが想定されますので、乳酸菌などを積極的にご利用になり、腸内環境を立て直すこともよいでしょう。なお、暑い日の夕はビールなどをたくさん嗜む方が多いようですが、夜遅くまで深酒をするとそれが引き金となってストレス腸を発症することがあると知ってください。健やかな腸は健やかな心を育てますので、腸を愛おしんでくださいね。
※下痢や便秘を繰り返す場合、必ず一度は受診して他の腸疾患が無いことを確認してください。
神楽坂発 お身体へのお便り No.107
安田祥子 Akiko Yasuda
株式会社jast代表取締役会長
統括メディカルアドバイザー、フリーライセンスドクター、「農林水産省 産学共同プロジェクト」メンバー
最愛の娘の突然の死をきっかけに、健康は当たり前のものではなく、自らの手で守り育むものと痛感し、分子生物学や医学などを学ぶ。2013年(株) jastを設立し家庭と医療機関を結ぶ架け橋としてのアドバイザー育成に取り組む。これまで200件以上のクライアント様の健康・医療・日常生活のご相談に応えるとともに、教育部門JAMAで主席講師を務め分子生物学の観点から細胞に働きかける栄養素や最新の遺伝子研究など多岐に渡る講義を行う。数多くの機関誌への執、講演会、セミナーなども行っている。
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