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高尾義彦のニュースコラム

沖縄戦犠牲者の遺骨と辺野古埋め立て

大きな犠牲を伴って太平洋戦争・沖縄戦が終結した76年前の6月23日。この日を中心に、今年も「沖縄慰霊の日」として、追悼の儀式などがあった。報道を通じて、米軍普天間基地の移転先として政府が整備を進めている辺野古沖の埋め立てに、沖縄戦で倒れた県民や兵士の遺骨が含まれる可能性がある沖縄南部の残土が使用される懸念が指摘されている。遺骨を遺族の手に、と阻止を訴える運動に、本土の人間も、もっと関心を持ってほしい。

「ぼくが遺骨を掘る人『ガマフヤー』になったわけ。」(合同出版)の著者で、遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表の具志堅隆松さん(67)は「慰霊の日」前の6月19日から那覇市の県庁前広場でハンガーストライキを開始した(21日から糸満市・平和祈念公園で)。辺野古埋め立てに使う土砂を採取する予定地として沖縄戦の激戦地だった沖縄本島南部が加えられたため、「遺骨が含まれた土砂を使わないでほしい」と訴え、玉城デニー知事にも、国の計画を承認しないよう求める意向を表明した。

防衛省は昨年4月、辺野古の米軍新基地建設のために、設計変更を県に申請し、埋め立て土砂の採取地に本島南部の糸満市と八重瀬町などを追加した。沖縄戦の戦死者は米軍を含め約20万人。南部は大戦で犠牲になった戦没者の遺骨が今も残り、公益財団法人・沖縄県平和祈念財団分室によると、昨年末現在で2849柱の遺骨が見つかっていない。

この設計変更は、基地予定地に軟弱地盤の存在が明らかになり、より多くの土砂が必要になったためだ。新基地の候補水域では、硬い岩盤に届くには水深90メートルまでの支柱建設が必要とされ、技術的な困難さも指摘されているのに、菅義偉政権は唯一の移転先候補との方針を変更しようとしない。

戦後の早い時期に、散乱した遺骨3万5千余柱を集めた糸満市の「魂魄の塔」周辺では、いまも具志堅さんらが遺骨を掘り起こしている。「遺骨が残り、人々の血を吸い込んだ南部の土砂で辺野古の海を埋め立てる行為は、戦没者や遺族への冒涜」と非難する言葉は重い。

具志堅さんは28歳の時にひとりで遺骨収集を始めた。最初は軍の拠点や住民の避難所となった「ガマ」(自然の洞窟)で遺骨を探した。那覇市の新都心となった地域に近接する真嘉比(まかび)地区の収集を機に、行政の壁を乗り越えてボランティア組織を立ち上げた。

著書を読むと、発見された遺骨がどのような状況で「死」に直面したか、戦争当時の現場の再現に、心を尽くしていることが分かる。沖縄戦で自決を強いられた兵隊や住民。軍は2個の手榴弾を兵隊に渡し、「一つは米兵攻撃に、一つは捕虜にならず自決するために」と命じたという。遺骨を丁寧に手作業で掘り起こすと、自決の状況を確定できると具志堅さん達は記録を重ねてきた。

これに対して、政府が新都心開発の際などに民間業者に委託した遺骨収集では、「工事用のショベルカーで大量の土砂を削り取って広い場所に積み上げ、ベルトコンベヤーに乗せて遺骨を探す方式」で、遺骨の身元を探す手がかりも無くなる。

ボランティアの発掘では、遺骨が身につけていた万年筆に刻まれた名前とDNA鑑定で遺骨の身元が判明した事例も報告されているが、ショベルカーの作業では、身元の特定など望むべくもない。本島南部で予定されている土砂採取の具体的な方法はまだ明示されていないが、防衛省は民間業者委託を検討しているといわれ、具志堅さん達はこうした手法にも強く反対している。

沖縄には何度か訪れたが、糸満市の「ひめゆり平和祈念資料館」と、沖縄戦犠牲者の名前を刻んだ石碑が並ぶ「平和の礎(いしじ)」が印象に残る。資料館では、4月に展示をリニューアルして、女学校の登校風景などを描いたイラストが迎えてくれるようになった。平和な学生生活に戦争が影を落としてゆく経過がありありと分かる展示で、若い世代に沖縄戦の記憶を伝える願いが込められている。

犠牲になった女子学生の顔写真がずらりと並んでいた従来の展示から、戦争を知らない世代への新たな様式のアピール。ただ新型ウイルスの影響で入場者が激減、経営危機に陥り、クラウドファンディングで資金を集め、3,000万円を超えたという。筆者もささやかに呼びかけに応じた。

沖縄の琉球新報社を訪れた際、沖縄戦のドキュメンタリー小説『島に上る月』(与並岳生著、新星出版)を教えられた。8巻の文庫を読み通して、沖縄戦の惨状を追体験した思いだったが、戦争の悲惨さ、悲劇を伝えるさまざまな営みを大切にしたい。  

最近の政治の動きで気になるのは、米軍や自衛隊基地周辺などの土地利用を規制する「土地利用法」が6月16日未明の国会で成立したことだ。規制対象が極めて曖昧で乱用される危険性が高いが、自民党政権は丁寧な国会論議を省略して強引に成立させた。辺野古の反対運動にも適用される恐れがあり、監視と警戒が必要と指摘する意見が強い。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


(日刊サン 2021.07.07)

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