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【ニュースコラム】神様、仏様も腰を抜かす 世界おもしろ宗教事情
いやあ、たまげました。ちょっと目を離しているすきに、宗教の世界は、とんでもない進化を遂げているのです。
仏教の各宗派は人口減や過疎化の進行もあって、どこも檀家の減少に悩んでいるですが、そこで知恵を絞ったのが浄土宗。2024年の法然上人による開宗850年の記念事業として、スマホの無料アプリを利用して全国約7000のお寺への参詣インセンティブをかきたてる、というのです。
GPS(全地球測位システム)に誘導されて、お寺の門前にたどりつくと、「参礼寺(マイレージ)」がたまり、さまざまな特典がもらえる仕組み。遠くから来た、本堂にお参りしたという方などには、ポイントが特別加算されるそう。「遊び感覚」でお寺離れに歯止めをかけようという苦心のアイデアです。
神道も負けていません。神田明神の名で親しまれる東京の神田神社が今年からリリースしたのは「神田明神EDOKKO倶楽部」という無料の公式アプリ。境内の専用端末にスマホをかざすと、1日1回で「1参り(マイリ)」がたまり、ポイント数によって神社オリジナルの記念品やイベント参加チケットと交換ができる、というのです。なかなか、やるものですね。
インドの人口の8割が信仰するというヒンズー教でも、IT先進国の名に恥じない変化が進行中。信者向けの有料アプリ「Bhakti(信愛)」はダウンロード数が10万を超える人気アプリです。ヒンズー教の祭りや儀式の開催日時の情報、神々や物語の解説が簡単に手に入るだけでなく、インド各地の「祈りの風景」が、ライブストリーミングで観ることもできるというのです。
「教祖アプリ」を購入すると、教祖(グル)のありがたい説教も、家にいながら拝聴できます。費用をかけて長い巡礼の旅に出かける必要もなく、お手軽にヒンズー教の奥義(おうぎ)のエッセンスを得られる、というわけでしょう。「讃歌アプリ」は、BGMとしても使え、ITリテラシーが高い若い世代を中心に、人気を呼んでいるそうです。
日本で宗教のかたちが大きく変わり始めたのは、5年ほど前からでしょうか。長野県上田市の葬儀場が、高齢者や体が不自由な人が車に乗ったまま葬儀に参列し、火を使わない電熱式で焼香をする「ドライブスルー葬儀」を始めたと聞いた時には驚きました。有名ハンバーガーチェーンのアイデアを借用したのでした。海外では、早くも1980年代に米国で「ドライブスルー」式の葬儀場が登場し、以来、徐々に増えているようです。余談ですが、その背景には、ギャングの一味が一堂に会する葬儀の場が、しばしば対立組織に狙われて抗争の舞台になってきた暗黒の歴史があった、という説もあるとか。(その名残でしょうか、棺の多くはいまでも防弾ガラスの中に納められていて、銃社会米国ならではのコワーイ事情をのぞかせています)。
日本では「祈りと弔いのかたち」の進化はとどまるところを知らず。昨年には宮城県の葬儀場が「ドライブスルー葬儀」に加え、葬儀の様子をライブ配信する「オンライン葬儀」のサービスも始めました。
大型モニターにバーチャル祭壇が映し出され、式の様子はオンライン中継。「参列者(視聴者)」はクレジットカードで香典を決済できます。視聴者には後に「香典返し」も届くという芸の細かさ。コロナ禍で大勢の人が集まることは避けたい世情を逆手にとっての、新たなビジネス展開。葬儀場に足が向きにくくなった高齢者らにとっては、福音となるかもしれません。
インターネット墓参りは、日本でもけっこう知られてきました。Zoomを使って、宗派を問わず、誰でも、どこからでも参列できるオンライン法要、バーチャル寺院を手がける浄土真宗の僧侶もいれば、あるモルモン教徒は、VR(仮想現実 メタバース)のヘッドギアを装着すると、聖書の一節がコンピュータで生成された3次元画像で再現され、牧師が現れ、スピリチュアルな宗教体験ができることを報告しています。
最新のテクノロジーを駆使した「メタバース宗教」「Web3教会」という耳慣れない言葉も、たまに新聞や雑誌で見かけるようになりました。
リアル供養からバーチャル供養へ。宗教のかたちは多様化する一途でしょう。そのうち、ロボット僧侶やアンドロイド神父が、ITチップに記憶したお経や聖書を読んで、ありがたい法話をしてくれる時代が来るかもしれません。それで、安らかに、あちらの世界とやらに旅立てるのか。葬式無用、墓無用が信条のわたしには思いも及びませんが。
(日刊サン 2022.6.10)
木村伊量 (きむら・ただかず)
1953年、香川県生まれ。朝日新聞社入社。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、ワシントン特派員、論説委員、政治部長、東京本社編集局長、ヨーロッパ総局長などを経て、2012年に代表取締役社長に就任。退任後は英国セインズベリー日本藝術研究所シニア・フェローをつとめた後、2017年から国際医療福祉大学・大学院で近現代文明論などを講じる。2014年、英国エリザベス女王から大英帝国名誉勲章(CBE)を受章。共著に「湾岸戦争と日本」「公共政策とメディア」など。大のハワイ好きで、これまで10回以上は訪問。