華やかに薔薇が咲き誇り、新緑が青空にまぶしい。ツツピ-、ツツピ-と四十雀が鳴き、五月晴れの風が心地よい。なのに・・・ 「人と離れよう!」TVが叫ぶ。ゴ-ルデンウイ-ク、各地から「私たちのところには来ないでください!」とせつない声。「ジョギングの人がいない、がらがらの銀座を走るんです。医者が感染したら医療崩壊につながりますからね」と、これはかかりつけのお医者さん。
日本全国に緊急事態宣言が出されたものの、感染者の減少は思ったほどではなく、5月6日までとされていた期限も延長、「ワクチンが開発されない限り、来年のオリンピック開催も無理」との発言も出てきた。PCR検査もなぜかいっこうに増えず、医療崩壊が声高に叫ばれている。感染者の8割が無自覚や軽傷のまま治癒してしまう故に、病院の外来や救急車での入院が院内感染を引き起こす例が多数出てきているのだ。そして残りの2割は本当にあっという間に肺炎症状が悪化し、そのうち2~3%は死に至っている。特効薬やワクチンがあれば安心するのだが、まだない。「レムデシビル」「アビガン」等名前は挙がっているのだが、実際に誰もが使えるようになるのはこれから。新型コロナ感染の収束は日本ではまだまだみえてきていない。
一方、いち早く武漢の封鎖解除を宣言し、企業活動を再開した中国を始め、アメリカ・フランス・ドイツ・ニュ-ジ-ランドでは学校の再開や商店での営業再開や工場再操業が一部始められている。(当然、第二波の感染が起こるのではないかとの危惧の声もあるが。)社会も経済も人と人とのつながり、往来があって初めて成り立つのに、それがコロナの蔓延の元凶となっている。命と経済、どうバランスをとるか。
そんな意味で眼を引いたのが「パンデミックには女性リ-ダ-が強い」という話題。ドイツのメルケル首相、ニュ-ジ-ランドのア-ダ-ン首相、アイルランドのヤコブスドッテイル首相、台湾・蔡栄文総統等はいずれも「お金(経済合理性)より命が大切」と、諸々のしがらみをぽんと飛び越えて、いち早く検査や強硬な規制を断行、早い決断で自国のコロナ対策に成功している。さらに国民に率直に情報を伝え続け、安心感、政府への信頼を勝ちとっているから、他国より一足早い小中学校の再開や一部商店の再開等、規制緩和のスケジュ-ルを発表できるのだと思う。(アメリカやフランスなどではロックダウンに対してあちこちで大規模なデモが起こっている。)つまり、命を生み育てる女性達の「命がまず大切」というぶれない姿勢があるから、その後の対応も柔軟にできるのだ。女性の活躍を期待したい。
もう一つ、感染症の専門家・長崎大学の山本太郎教授の「ウイルスとの共生が必要」との言葉。NHK記者のインタビュ-に「人間は自然の中の一員である限り、感染症は必ず存在する。だから完全には撲滅できない。だから人的被害を最小化しつつ、ウイルスと共生していくことなんだろう。社会機能を破綻させなければ、それは可能だろう。」と答えている。そういえば、インフルエンザ等我々と共生しているウイルスも沢山ある。エイズは隠されていた故、拡散が広がり、治療薬の開発が遅れたが、SARSは情報公開が積極的に行われて感染をストップすることができた。今回のコロナも爆発的な感染力で国境封鎖など自国第一主義になる一方、治療薬・ワクチン製造の方はグロ-バルな連携で開発が進みつつある。世界が力を合わせて、一日も早くインフルエンザ並みの人とウイルスの共生が可能になってほしい。
安倍首相は緊急事態宣言の延期に当たって「5月7日からかつての日常に戻ることは困難だと言わざるをえない」と述べたが、昨日と同様な明日にはもうならないと思う。リ-マンショック以来の世界不況、経済回復には少なくとも2~3年かかるだろうし、回復したとしても、今回一段とその有用性が認められたAIに職場を奪われ、経済格差はますます広がるだろう。ソ-シャル・ディスタンシングのおかげで人と人との関わり方が変化、社会も変わるだろう。
しかし、それだからこそ。一人一人がそんな中でどう生きるか考えよう。新しい世界を作ろう。希望を持とう。ウイルスに負けてたまるか!の心意気で。
川戸恵子 (かわどけいこ)
TBSテレビ・シニア・コメンテ-タ-。TBS入社後、ニュ-スキャスタ-を経て、政治部担当部長・解説委員さらに選挙担当として長年政界を取材。そのほか、これまでに自衛隊倫理審査会長、内閣府消費者委員会委員などを歴任。現在、TBSNEWSで週一回の政治家との対談番組を制作。また日本記者クラブ企画委員・選挙学会理事。
(日刊サン 2020.5.8)