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ニュースコラム 高尾義彦のニュースコラム

【高尾義彦のニュースコラム】日本の寄付文化はどう変わって行くのか

 世界遺産に指定されている奈良の法隆寺が、施設の維持管理を目的にクラウドファンディングで善意の募金を求めたところ、短期間で目標の5倍を超える金額が集まった。新型ウイルスの感染者が増えて列島が緊急事態下に置かれた2年半ほど前から、飲食業や映画などの文化部門を中心に、クラウドファンディングが展開され、欧米と比べて寄付には消極的な日本人の意識が変わりつつあるように見えるが、寄付文化が本当に根づくのだろうか。

 法隆寺は世界遺産に登録されて2023年に30周年を迎える。境内を美しく整備して参拝者を迎えたい、とクラウドファンディングに思い至ったという。これまで施設の維持管理費は参拝者の拝観料で賄われてきたが、新型ウイルス禍により参拝者が激減、窮余の一策だった。

 呼びかけは615日に始まり目標金額は2,000万円としたが、翌日には目標金額を達成し、8日目には1億円に到達した。計画では729日まで実施する予定だが、7月8日現在で6,606人から1億35185000円が集まった。返礼品としての特製の御朱印なども呼び水になったようだが、返礼よりも、これまで参拝してきた人たちの感謝の気持ち、法隆寺の歴史や文化に対する敬意が現れて、これだけの額になったのだろう。

 人々の善意に関して、もう一つ、びっくりしたニュースがあった。ロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」のドミトリー・ムラートフ編集長は昨年、ノーベル平和賞を受賞した。そのメダルが620日、ニューヨークで行われたヘリテージ・オークション社の競売にかけられ、1億350万ドル、日本円にして140億円で落札された。

 編集長はロシアの軍事侵攻で避難せざるを得なかったウクライナの人々の支援に充てたい、と競売にかけた動機を明らかにしていた。売上金全額がUNICEF(国連児童基金)の人道支援活動に寄付されるという。日本人の感覚からすると、驚くしかないが、欧米では経済的に豊かな人々による寄付文化は、当たり前のこととして根づいているように感じられる。

 自分自身の寄付体験を振り返ってみると、現役で仕事をしていた頃、卒業した東京大学から施設整備などの基金に、と協力を求められ、相応の寄付をした。見返りに、本郷キャンパスにある安田講堂1階の座席の背面に名前が刻印されている。

 勤務していた新聞社の社会事業団には、「希望奨学金」「海外難民救援金」などの目的を指定して、時々、ささやかに寄付をしてきた。ウクライナなどでも活動する「国境なき医師団」にはカード決済で毎月、少額を寄付をするシステムに参加している。新型ウイルス感染拡大の事態を受けて、入場者が激減した沖縄・ひめゆり平和祈念資料館や小さな映画館グループなどに、ささやかに寄付をしてきた。

 身の丈に合った形で少しでも社会の役に立てればという気持ちから、ささやかな思いを届けたいと思う。日本人の場合、こんなところが平均的な寄付感覚ではないだろうか。

こうした事情を踏まえ、日本人の寄付文化を考える時、「ふるさと納税」の是非の問題にぶつかる。

 ふるさと納税では、生まれ故郷の吉野川市のほか、友人の元日経新聞記者が新潟県・弥彦村の村長に就任した際、ご祝儀の気持ちも込めてふるさと納税先に加え、自慢の新潟米が返礼品として送られてきた。

 ふるさと納税は2008年度から始まったが、次第に返礼品が高額になるなど問題点が生じてきた。総務省は20196月、返礼品は寄付額の3割以下とし地場産業の産物に限る、と通知したが、問題が続発している。

 例えば高知県奈半利(なはり)町では、寄付額約117億円に対し返礼品にかかった費用は約101億円という年度があったことが明らかになっている。その裏で、担当の課長補佐らが返礼品を扱う精肉店などを指定し、その見返りに約9380万円を収賄していた事件が摘発されている(20203月、一部公判中)。

 大阪府泉佐野市では、2019年の地方税法改正に伴い、「寄付額は3割以下、返礼品は地場産品に限る」との規制を守らなかったとして、他の自治体とともに、ふるさと納税の対象から除外された。これを不服とする泉佐野市は大阪高裁に提訴し、請求を棄却されたため最高裁まで争い、結局、除外決定取り消しの判断を勝ち取った。

 ふるさと納税は、菅義偉前首相が総務相当時に導入し、秋田県出身の菅前首相は「私の原点はふるさと納税にある」とまで入れ込んでいた。総務省の2020年のデータでは、約3,489万件、総額は約6,725億円にのぼる。

 制度には、都市から地方へ税収を振り替えることによって地方創成を促進する趣旨が込められているが、テレビなどでふるさと納税を促す仲介業者のCMを見るたび、強い違和感を覚える。東日本大震災など被災地の自治体にふるさと納税として支援が届けられるメリットを否定するものではないが、日本人の寄付文化のあり方を考える時、返礼品ばかりが強調される風潮は、そろそろ卒業すべきではないだろうか。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


 

(日刊サン 2022.7.13)

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