【高尾義彦のニュースコラム】ドバイ万博から大阪・関西万博へ あれこれ気になることが
アラブ首長国連邦(UAE)で開かれていた「2020年ドバイ国際博覧会」が3月31日で幕を閉じ、2025年開催の大阪・関西万博にバトンが渡された。大阪府知事らはドバイに出向き各国に参加を要請、「大阪」をアピールしたが、1970年の大阪万博のような成功が可能なのか、あれこれ気になることが多い。万博会場と隣接する用地にカジノを含む統合型リゾート(IR)を誘致する計画への住民の反発など難題もあり、今後の動きから目が離せない。
UAEには10年近く前に訪れ、石油由来の経済力で砂漠の上に作り上げられた近代都市に驚いた。いずれ石油資源が枯渇する時期が来ることを想定し、UAEは観光を売り物に持続的な経済成長を目論み、万博もこうした思惑の延長線上にある、と世界一高いブルジュ・ハリファなどを見学しながら実感した。万博誘致が決定した頃で、街に万博への熱気が感じられた。
当時、驚いたのはパリのルーブル美術館から作品提供などの協力を得て、第二ルーブルを開設する構想が進められていたことだった。この構想は2017年のアブダビ・ルーブル美術館開館で実現したが、名前の使用料として30年の期限付きで5億2500万ドル(約530億円)を負担するという。こうした政策の延長線上に位置づけられるドバイ万博は、新型ウイルスの影響で当初の予定より1年遅れて開幕。2300万人以上が訪れたとされ、観光客の行動が制限されている中で、成功と評価されているようだ。
大阪府の吉村洋文知事は3月末に日本政府のパビリオン「日本館」を含む複数の展示館を見学し、大阪・関西万博への参加を表明していない国には出展を働きかけた。大阪市の松井一郎市長も一緒にウクライナ館を訪れ、ウクライナ館実現への支援を約束した。
3年後の4月に始まる万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。大阪市臨海部に造成された人工島「夢洲(ゆめしま)」の155ヘクタールを会場とし、約2820万人の来場を目ざす。150の国と25の国際機関の参加を想定しているが、3月時点で参加表明は、87ヶ国、6国際機関にとどまる。
来訪者は2820万人を想定しているが、この皮算用が成立するのか、という点も心もとない。主体となる日本国際博覧会協会は、関西地区から1560万人、全国から910万人、海外から350万人の来場を見込む。海外からの来客人数は5,000万人のインバウンドを前提とした数字のようだが、日本のインバウンドの推移をみると、2018年に初めて3000万人を突破したものの、新型ウイルス蔓延の影響で2020年は411万人余(目標4000万人)にとどまり、昨年は25万人に届かない惨状だった。
基本計画では、会場建設費以外の支出(809億円)の86%にあたる702億円が入場券の販売収入で賄われることになっている。総予算2659億円の内訳は、国庫補助、大阪府・市の補助、民間資金がそれぞれ600億円余に加え、この入場券収入が大きな比率を占めるが、新型ウイルスの感染状況によっては、収支構造に赤信号が灯りかねない。
前回の大阪万博の際に、筆者は静岡在勤の新聞記者として、新幹線や東名高速道路を利用して多くの団体客が岡本太郎の「太陽の塔」を目指した様子を記事にした。最初の東京五輪が日本経済の上昇期を象徴していたように、大阪万博も、国民的熱気がバックアップしたのではないだろうか。
大阪・関西万博を盛り上げるため、一人一万円の寄付を募って2025本の桜を植える計画を大阪府などが進めている。植樹費用は1700本分2億5500万円を寄付で、残りは趣旨に賛同する企業などに拠出してもらう計画だが、3月時点で247本分しか達成できず、シンボルマークの桜を意識した企画も、前途多難の気配。万博に対する現在の国民感情を表しているように思える。
出展する企業のパビリオンも、経済の動向、好不況に左右される傾向は避けられない。最近では、オリンピックの公式スポンサーとして手を挙げる企業が減少、大型イベントに消極的になる企業の姿勢もうかがわれる。スマートモビリティ万博と称して「空飛ぶクルマ」など最新の科学技術を活用・展示する場となることが期待されるが、具体的なイメージはまだ浮かんでこない。
こうした状況の中、大阪市が「夢洲」の万博用地に隣接するIR候補地の液状化対策として790億円を負担する計画が公表され、強い批判を浴びている。IRの誘致計画に反対して住民投票実施を求める署名運動が準備されつつあるという。万博もIRも、政治的には松井大阪市長が代表を務める日本維新の会が旗振り役を担う。昨年の総選挙で一気に議席を増やした勢いに乗って、ビッグイベントへと突き進むことに懸念を抱く有権者の声を無視できるのだろうか。
テーマ事業プロデューサーの一人、映画監督の河瀨直美さんはドバイ万博視察後に、女性や平和への思いを万博に込める気持ちを新聞のコラムに寄稿している。こうした理念を実現するため、あれこれ気になる課題に、主催者は適切に答える義務がある。
高尾義彦 (たかお・よしひこ)
1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。
(日刊サン 2022.4.13)