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ニュースコラム 高尾義彦のニュースコラム

【高尾義彦のニュースコラム】教育現場に女性進出の道広げ、改めて女性が輝く社会を

 日本の大学共通一次テストが14日に始まり、受験シーズンが始まった。今年は理工系の大学で入試に「女子枠」を設ける動きが広がり、政府も女子学生確保を後押しする方針を示して、女性が活躍できる新たな社会に向けてかすかながら光が差し始めている。社会の発展には多様性の確保が求められるという意識が背景にあるようだ。

 筆者が大学に入学したのは東京五輪が開催された1964年で、もう60年も前のことになる。文系の教養学部時代、70人ほどのクラスに女性は10人ほどだった。現在は女性が半数を超えているのでは、と推測するが、理工系を含めた全体数では、まだまだ女性が占める割合は少ないようだ。

 工学部入試の「女子枠」導入で新たな方針を打ち出したのは東京工業大学。2024年度入学者のうち総合型・学校推薦型選抜に58人、25年度は143人の「女子枠」を設けると発表している。東工大の場合、学部段階の女性比率は約13%で、「女子枠」の新設により20%を超えると見込んでいる。

 名古屋大学は23年度入学者の学校推薦型選抜で工学部2学科計9人の「女子枠」を設ける。さらに、富山大学8人、島根大学6人の「女子枠」も23年度入試から設定される。私立の芝浦工業大学では、工学系4学科に設けてきた女性向けの推薦入試を22年度に全9学科に拡大し、23年度入試では全4学部に広げる方針を明らかにしている。

 文部科学省の学校基本調査(21年度)によると、大学生数は約263万人でこのうち女子は119万6555人(45.6%)と過去最多になっている。大学の学部生に占める女性の割合は、学部別にみると、薬学・看護学78.0%、人文科学65.9%、教育59.0%、農学45.1%、医学・歯学37.4%社会科学35.7%。これに対して、理学27.8%、工学15.7%と理工系の少なさが目立つ。工学部系の学部に所属する女子学生は約6万人で、工学部学生約38万人の16%に達していない。

 経済開発協力機構(OECD)のデータによると、理工系に進んだ女性はOECD諸国平均の15%(19年)に対して日本は7%で大幅に下回っている。永年ジェンダー研究に取り組む大沢真理・東京大学名誉教授は「女子学生が3割を超えれば、男性文化は変わるだろう。似たような男性ばかりの同質性の高い集団ではブレークスルー的なイノベーションは望めない」と指摘する。

 男女平等の指標となる「世界経済フォーラム(WEF)」の調査では、女性大統領も誕生したアイスランドが1位、日本は146か国中116位だ。国会議員の女性比率は衆議院9.7%(45人)、参議院20.7%と、男女平等が進まない現実がデータに現れている。筆者が2019年にこの欄を担当し最初のコラムを執筆したのが参院選の直前で、「もっと女性議員を」と提起したことを思いだすが、なかなか男性社会の壁は厚いようだ。

 アフガニスタンを支配するイスラム原理主義組織、タリバン暫定政権は昨年12月、女性の大学教育を停止すると命じて、女子学生たちはカブール大学などで構内への立ち入りを禁じられた。まさか日本で歴史を後退させるこのような事態が起きるとは考えられないが、他山の石としたい。すでにアフガニスタンでは中等学校(日本の中学、高校)で女子生徒に対する教育が禁じられ、タリバンの目を逃れて学ぶ女生徒の姿が報道されると胸が痛む思いを禁じ得ない。

 教育の場で女性の能力を生かす試みとしては、教える側の女性を増やす方針が東京大学で提案されている。東大は教員の25%以上を女性にする目標を掲げているが、現在は約17%にとどまる。目標実現のため、今後6年間に採用・昇任が予定される1200人の教授・准教授のうち300人を女性とする計画が公表されている。

 自分の大学時代を振り返ると、女性教授はフランス文学を担当したフランス人女性のみで、やはり男性優先の社会だった。クラスメートの女性は、卒業後、大学で教壇に立ってきた人もあり時代は変わってきたが、そのスピードは遅いと言わざるを得ない。

 東大の多様性実現に向けてリーダーシップをとる副学長の林香里教授は、ロイター通信の記者を経験した後、東大大学院に進んだ。子育てをしながら研究を重ねた自分の体験から、男性中心の組織に疑問を抱き、改革を目指して行動してきた。「研究現場の多様性の確保やジェンダー平等の推進が、今までとは異なる視点からの研究を生み出し、研究成果の質も上げることにつながる」と語る(毎日新聞「ひと」欄)。

 政府の教育未来創造会議(議長・岸田文雄首相)は「理工系等を専攻する女性の増加」と提言、奨学金新設などの支援を検討している。大学教育に対する国家予算の配分は必ずしも十分ではなく、それぞれの大学は独自に基金を集める工夫を強いられている。教育こそ日本の未来を築くカギであることを、政治家ももっと認識すべきだろう。

高尾義彦 (たかお・よしひこ)

1945年、徳島県生まれ。東大文卒。69年毎日新聞入社。社会部在籍が長く、東京本社代表室長、常勤監査役、日本新聞インキ社長など歴任。著書は『陽気なピエロたちー田中角栄幻想の現場検証』『中坊公平の追いつめる』『中坊公平の修羅に入る』など。俳句・雑文集『無償の愛をつぶやくⅠ、Ⅱ、Ⅲ』を自費出版。


 

(日刊サン 2023.1.18)

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