STSフォーラムとは科学技術と 人類の未来に関する国際会議
私が主催している「STSフォーラム」とは 日本語で 「科学技術と人類の未来に関する国際フォーラム」というもので、簡単に言うとダポス経済会議の科学技術版です。世界 の著名な科学者や政治家 ・ 企業家などが京都に集まり、3日間に渡って科学技術に ついて意見を交換します。去年は104カ国から1000人が集まりました。
昨年はハワイ大学総長のグリーンウッド氏も参加しま した。これは日本主催の国際会議として最大のものであり、2004年に始まり今年8回 目を迎えます。科学技術の会議としては世界最大です。 この会議では 「科学技術の光りと影」を どのように扱うか、科学者だけでなく様々 な分野の人々が集まって相談します。
科学 技術のおかげで生活や経済は発展しまし たが、環境問題やクロ一ン問題など様々な 影の部分もある。「光りと影=Lights and Shadows 」とは私が作った言葉で、最初 は英語圏の方に 「そんな英語はない」と言われましたが、今では参加者全員が使って います。
現在は天風会の仕事とSTSの仕事が半々で、1年の3分の1は海外を飛び回っています。アメリカ・カナダ・ブラジル・メキシコ・イギリス・ドイツ・フランス・フィンランド・スウェーデン・オランダ・インド・中国・韓国・マレーシア・ベトナム……ほとんど全ての国を回っています。
STSをまだこ存じな い国を中心に世界をまわり、参加をお願い しています。先日ハワイのダニェル・ イノウ工上院議員にも参加をお願いしました。
この国際会議の構想を思いついたのは、 天風会の教えによるインスピレーションの おかげです。思いついたのは2001年の小 泉内閣発足の際、科学技術政策と沖縄•北方対策担当大臣を務めることになった時 のことです。それから3年かけて実現しました。このような会議は前例がなかったので、最初は反対されるどころか相手にされない ことがよくありました。
科学技術に関しての 国際会議を開くということを世界中の誰も思いっかなかったのです。誰かがやってい ることを踏襲するのに比べて、ゼロから何 かを生み出すのはものすこいエネルギーが必要です。しかしインスピレーションで感じ たことを実現に向けて実践していくという方法を天風会から学んできたので、きちんと実現することができました。
現在は各国から非常に注目を集めており、会議会場は 10年先までもう予約してあります。「原子力をどう扱うか?」を議論するのが 今年の目的です。安全性の確保と平和利用 に限定するということをしっかりと守った 上で、原子力を使わなければ人類は生き延びられないと世界のトップの人々は考えて います。
今原子力をやめて他のエネルギー を使ったら、炭酸ガスが増え過ぎてしまっ て環境を破壊してしまいます。アメリカ ・ フ ランス ・ イギリス ・ 中国・ インドなど、主要な 国はほとんどが原子力推進派です。日本も時期がくれば推進に戻ると思います。もし 戻らなければ、日本という国は 「完全に三 流国」となる。
世界のリーダーの一国として 生きていかなくても良いのならばその選択でもいい。しかし世界のリーダーであり続けるには、今手を抜くことはできません。そういう意味では、私はものすこく危機感を 持っています。震災ではたくさんの方が亡くなっていますが、放射能では誰も死んで いないのです。ゼロです。
原子力に代わるエネルギーは今のところありません。太陽エネルギーでは間に合わ ない。すべての国が原子力の使用をやめた ら炭酸ガスが増えすぎて世界は持ちこたえられません。自然体系が完全に破壊されて しまいます。
沖縄と科学技術を結び付ける・沖縄大学院大学
STSと時を同じくして思いついたのが沖縄大学大学院の構想です。本来、科学技術 と沖縄対策は何の関係もなかったのですが、2つの大臣を同時に担当することにな って考えつきました。
沖縄は観光地としては非常に有名ですが、いわゆる近代産業は発展していない。 そして1人当たりの国民所得も日本一低い。その沖縄をどのように発展させていくか、そういうことをいろいろ考えつつ、科学 技術で日本を作り直すことを考えていたの で、それならばその2つのアイデアを結びつ けて沖縄に科学技術系の大学院大学を作ることを思いついたのです。
世界中の大学を見学しいろいろな意見 を聞き、世界最高水準の大学をめざすこと になりました。科学だけではなく生物学•物 理学·コンピュ ーティング ・ ナノテクノロジ ーなどの学問分野にわたる学際的な大学 にすることになりました。大学構内で使用する言語はすべて英語とし、世界中から教 授を招き、学生も各国から受け入れで半分以上は日本以外の国の人が集まる国際的な大学です。
沖縄大学院大学はll月に開校式が行われる予定となりました。学長は前のスタ ンフォード大学学長です。ノーベル賞科学者が5·6人運営委員会(ボード ・オブ・ ガバナーズ)に名を連ねています。琉球大学とハワイ大学は提携しており、グリーンウッド学長も大学院大学を視察にいらっしゃる予定だそうです。
STSも沖縄大学大学院も人類の未来を 考えるのが仕事ですから両方楽しいわけですよ。忙しいですが休みたいとは特に思 いませんね。講演を頼まれたら空いているところにどんどん入れてしまいますし、来年 の予定もすでにかなり決まっています。早く 来年の手帳を買わなければと思っています(笑)。
東日本大震災後の経済対策
震災後の現地の処理はまだ残っていますが、経済はほとんど復興しました。今後の経済対策としては、消費税を上げるしかないと思います。消費税を5%上げれば解決します。日本はアメリカと並んで国民の負担額が最も低い国なのです。所得が対する日本の国民負担率(税金と社会保障・雇用保険など合計から何%を納めているか)は38%くらいです。
アメリカは35%くらいですが、国民健康保険がありませんからその負担を合わせるとだいたい日本と同じくらいになります。ヨーロッパは平均55%くらい、スウェーデンは70%です。ですから、消費税を5%上げても39%が44%になるだけでそれでもまだ世界では低いわけです。それなのに消費税を上げないというのはおかしい。
日本は国民の負担が一番低くて、一方借金は世界一の国なのです。野田氏は消費税を上げると言い続けて総理大臣に就任していますから、野田さんの時代に解決するのではないかと思います。
尾身幸次(おみこうじ)
1932年群馬県沼田市生まれ。1956年一ツ橋大学商学部卒業後、通産省に入省。在ニューヨーク総領事館領事・南アジア東欧課長・科学技術庁総務課長・中小企業庁指導部長などを歴任。1983年衆議院議員当選、以来26年間衆議院議貝を務める。1995年科学技術基本法制定の中心的な役割を果たす。1997年経済企画庁長官として初入閣。2001年沖縄及び北方対策担当・科学技術政策担当大臣として、世界最高水準をめざす沖縄科学技術大学院大学の設立を提唱し、これを推進。またダボス会議の科学技術版といえるSTSフォーラムを2004年に創設し、現在理事長を務める。2006年財務大臣。2010年旭日大綬章授章。20代に結核を患い、中村天風師に師事し「心身統ー法」により病気を克服し人生を切り拓く。現財団法人天風会理事長。著書『天風哲学実践記人生を切り拓く』
(日刊サン 2011.09.09)