アーティスツ・オブ・ハワイに選ばれて
今回入選した”アーティスツ・オブ・ハワイ”は2年に1回のホノルル美術館主催の公募展で、今回は約340人の中から11人が選ばれました。事前に作品の画像を提出して、審査が行われ、入選した後10ヶ月かけてホノルル美術館に飾る作品の制作をするという流れでした。 この公募に関しては昔から知っていましたが、応募したのは初めてでした。
まだまだ無理だと思いながら、締切の2時間前に応募しました。発表があった去年10月に、教授から「おめでとう」というテキストが携帯電話に送られてきたときは何のことかわかりませんでした。家に帰って入選者の名前を見て驚きました。 作品を制作する10ヶ月間はプレッシャー がありました。
入選者は美術の先生やすでにアメリカ本土の美術館に作品を発表している方ばかりでした。それまでは好きなよう に描いていたのが、美術館の壁に貼られると思うと緊張しました。それが作品にも出ていると言われ、最初に描いた絵はどこか堅くて、上から何回も塗り直しているので重いんです。でもだんだん吹っ切れて描けるようになっていきました。最後に描いた作品はの びのびしていると評価されました(笑)。
この10ヶ月間、夫と9歳の息子が協力して、支えてくれました。夫は、毎週週未息子を連れ出して、私が集中して描ける時間を作ってくれましたし、家事も協力してくれました。今回期限までに無事絵が搬入できた のも、家族や先生、職場の上司、同僚、そして友人など周りの人たちがサポートし続けてくれたお陰と感謝しています。 ハワイ大学に編入した6年前には、まさ か自分の絵が美術館に飾ってもらえるとは思わずに勉強していました。
ホノルル美術館で、他の受賞者たちと |
絵を描いているときは何にも代えがたい至福の時間
一般の短大に進み、就職をして、絵を描くことを忘れたこともありましたが、こうして今があるのは、絵を描くことが「好き」だ からだと思います。子どもの頃から今に至るまで、絵を描いているときは、私にとって何にも代えがたい至福の時間です。
コンセプトを立ち上げたり、構図を考えたり、実際にキャンバスに向かったりと一貫の作業はすべて単独で行いますので、孤独ではありますが、自分の世界に没頭できる贅沢な時間でもあります。描きたいアイ デアやイメージは常時頭の中にいくつかストックしてあり、いつも早くそれらを作品として表現したいと思っています。
趣味的に描いていたときは、頭の中のイメージと技術がマッチしなかったため、出来上がった作品にギャップがありフラストレーションを感じていました。大学で学んでからは、少しずつですが色や形が、自分がイメージしたものに近づくようになりました。 よく芸術は才能と言われますが、それだけではなく、多くの作品を見ること、学ぶこと、練習することでも無限に上達していくも のだと思います。
続ければ作品はどんどん変化し可能性が広がります。でも筆を置いたらそこでストップしてしまいます。何でもそうだと思いますが、仕事でも趣味でも好きなことがあるということはありがたいことだと思います。そしてそれを継続することが大事だと思います。絵を描くことは私の生活の一部で、一生 続けたいことです。まだまだ満足のいく作品が描けていませんので、一生をかけて勉強するしかありません。
実は思ったよりも体カ 勝負で、ストレッチャーバー(キャンパスの 枠)の材料となる木材をホームセンターで購入し、チェーンソーでカットし組み立てる のも作業のうち。作品が大きいので、厚いキ ャンバスを張るだけで手に豆ができます。描いているときは一日中立ち通しですし、重い キャンバスの移動もしなければなりません。でも、描いているときの高揚感は格別で、自分の作品が人に見てもらえることは喜びです。できるだけ毎日の食事に気を付けたり、運動やストレッチで体調を管理することで、 少しでも長く描き続けたいです。
グラバー由美子(Yumiko Glover)
広島県出身。ハワイ大学芸術学科卒業(専攻: ペインティング)し、BFA(美術学士)を取得。 在学中、芸術学科絵画部門ベストスチューデ ント賞を受賞。2011年、第51回ウィンドワー ド•アーチストギルド公募展で最優秀賞を受賞、同年、ホノルル日本商工会会議所主催の第33回コミットメント・トゥー・ザ·エクセレン ス公募展の2D部門で1位を受賞。2012年 にニューヨーク3×3出版の芸術ジャーナル誌Creative Quarterlyに作品が掲載される。
ホノルル市内にて、ラッキーベリーでの個展の他、ハワイ大学ギャラリー、ホノルル美術館アートスクール、ホノルル美術館スバルディングハウス・コンテンポラリーカフェ、バウアヒタワー、ジャパン・ハワイ・カルチャーエキスポなどで展示を行うと共に、オーストラリアABCテレビのオンラインギャラリーや、ジャケット2オンラインマガジンで作品を展示中。現在、日本の社会現象を通して、男女問のセクシュアリテ ィーの観点の違いを作者の視点から表現した「浮世の萌え要素」をシリーズで制作中。作 品制作以外では、裁判所での法廷画の他、ハ ワイ大学ホノルルコミュニティーカレッジの日本社会学及び女性学の授業でゲストスピーカーとして定期的に講演を行なっている。ホノルル市在住。
(日刊サン 2013.09.28)