「サンタさんはいるよ、だって屋根の上にソリの跡があったもん」。小学校に入りたての頃、級友が主張した。いや、単にスコップで屋根の雪下ろしをした跡じゃないの、と思い何もコメントをしなかったら、後で親に「信じている子もいるから、いないと言ってはダメよ」と念押しされた。
ニューヨークのマンハッタン、三十四丁目にあるメイシーズ百貨店では例年クリスマスシーズンになると販売促進のため豪華なパレードを開催していた。しかし、今回サンタに扮した人物がなんと泥酔状態、それを見兼ねたひとりの老人が代役を務めることに。店舗の責任者ドリスは、愛想もよく子供たちにも大好評の老人を雇用するものの、彼は自分は“本物”だと言い出す。私生活で苦労したことから極度の現実主義だった彼女は、娘のスーザンにも同様の教育方針を強いており、サンタクロースなど存在しない、老人は妄想癖のある変わり者だと拒絶反応を示していたのだが―。
てっきり子供向けのクリスマス・ファンタジー作品だと思っていたら大間違い。むしろ、夢や想像力を忘れかけている大人に「思い出して」と優しく訴えかける内容で心温まった。まさか老人の善意が百貨店にとって強力な経営戦略になるとは、そしてサンタクロースの存在の有無をめぐる裁判は判事の再選がかかった重要な案件となり…とオトナの事情が盛りだくさん。子供の時に観ていたらきっとそういった状況が理解出来なかっただろう。シングルマザーでキャリアウーマン、今の時代でも大変な状況にあるドリスに対しては、70年以上も前からアメリカでは女性がこんなライフスタイルが出来たのか、と驚きもあった。そして裁判の結末と、圧巻のラスト。誰かを笑顔にしたいと願う気持ちはめぐりめぐって返ってくるのだと、魔法ではないれっきとした奇蹟を見た。
大人になった今、サンタクロースはいるかと聞かれたら、いる!と答える。ソリで空は飛ばないかも知れないが、誰かをハッピーにしたいと想う人がいたら、それがサンタクロースなのだから。
●加西 来夏 (かさい らいか)
映画は年間100本以上視聴、訪問国は39ヵ国~の旅する映画ラヴァー/子供時代はスーザンと同じような考えだったので、わかる、わかるよその気持ち!とつい肩入れしてしまいました。
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