中古車販売店の気になる「アイツ」とは何かというと、アレですよ、アレ。筒形の巨大バルーンで、手と顔が付いており、空気によってランダムに動く物体。街道沿いなどで踊り狂っているといえば、ピンとくるんじゃないだろうか? アメリカでは中古車販売店やセール中の店先に設置されていることが多い。そのため、私は「中古車販売店のアイツ」と呼んでいる。
「アイツ」を初めて見た時の衝撃は、今でも鮮明に覚えている。「なんだアイツ!」と、私は度肝を抜かれ、釘付けになってしまった。
まず、デカい。体長5~6メートルくらいで、建物の二階どころか三階に届くくらい背が高い。そして色がド派手である。赤青黄色などはっきりした色しか存在しない(白もあるけど)。遠目にもめちゃくちゃ目立つ。このバカバカしいほどのスケールの大きさは、アメリカの街道沿いにぴったりハマっている。
アイツは必ずフレンドリーな笑顔を浮かべている。特筆すべきはこの顔。なんとアイツには、両面に顔があるのだ! ふたつの顔を持つとは、ローマ神話のヤヌス神をモチーフにしているのだろうか? 私がいつも見ているのは表の顔で、裏側の顔に真実が隠されているとか……。確認したいけれど、運転中に車を止めるのは面倒なので、なかなか実現しない。まあ、表情も体形も、ローマの神さまというよりは、アメコミ風なんだけどね。
私がいつも出くわすアイツは、ハイウェイ11号沿いの中古車販売店のピンク1号と2号である。朝から笑顔で踊り狂っているものの、私が帰るころには勤務を終えている。出しっぱなしにしておくと盗まれる可能性があるのだろう。アイツそのものよりも、アイツに接続する送風機が高価なのかもしれない。
アイツについて考えていると、いろいろな想いが湧き上がってる。それなのに、アイツの本名を知らないまま何年も経ってしまった。このままではイカン。というわけで、本名を調べてみたら「inflatable tube men」または「air dancers」という名前だった。「inflatable=空気で膨らませられるチューブマン」って、そのまんまですな。なるほど。「エアダンサー」の方が親しみやすい気はする。
てなことを、日本に住む姉に報告したところ、「それ日本にもいるよ」という。え、そうなの? 私が日本を出た10数年前にはいなかった気がするんだけど。ネットで確認したところ、いるいる、日本にもいる! 名前は「エアーダンサー」というのが一般的な様子。アメリカのとそっくりじゃんと思ったら、アメリカ製品を輸入販売しているみたい。
しかし、日本版は「ジャンボサイズ」が183cmだった。それって、超小型だよ! アメリカンサイズは6メートルだよ、3倍以上だよ! 日本の皆様に、ぜひアメリカンサイズのアイツを見せてあげたい。
ちなみに、ハワイの日差しはキョーレツなので、アイツはあっという間に色褪せます。
No.231
相原光(アイハラヒカル)
フリーランスライター&翻訳
群馬県出身、早稲田大学卒業。2008年結婚してハワイに移住。夫は寿司シェフ。2012年4月双子猫パンとマーチを連れてハワイ島に引越。8月に玄米寿司とムスビの持ち帰り店「DRAGON KITCHEN」を夫婦でヒロにオープン。現在ライター兼寿司屋のお手伝いとして活動中。姉は漫画家の花福こざる。
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