「我々が現実に生きている確率は数10億分の1」。天才実業家イーロン・マスクの発言だ。これはオックスフォード大学教授ニック・ボストロムが提唱した“シミュレーション仮説”に賛同したものであり、ただのファンタジックな推論ではない。
大手IT企業に勤めるトーマス・アンダーソンは、上司に能力を認められながらも度々遅刻をする問題児。というのも、裏では天才ハッカー“ネオ”として夜間も活動する生活を送っていたからだ。そして、日頃夢から覚めても現実なのか曖昧で確信出来ない悩みを抱えていた。すると謎の女性トリニティと出会い「あなたの探している答えが見つかる」と告げられ、遂に真実を知る―今まで見てきた現実はコンピュータのシミュレーションであり、人類は生まれながらにずっと眠らされコンピュータのエネルギー源になっていることを。
弾丸がスローモーションに見えそれを避けるアクションシーンは以後数々のパロディにされるほど有名で、退廃した未来像やスタイリッシュなファッション、挿入歌のチョイス等、今も色褪せないかっこよさだ。この世界観は数あるSFの中でも最高峰だと思っている。が、一番の感想は『やはりそうだったのか』だ。当時、普通に生活していて現実味がないと真剣に悩んでおり、さらに来たことが無いのに見覚えのある場所、初めて会うのに懐かしい人といった現象を奇妙に感じていた。そうしたら、なんとこの映画は“世界は仮想現実だ”というではないか。劇中で既視感はいわゆる“バグ”、プログラム上の不具合だと表現されている…自分がコンピュータに管理されているか否か知る由もないが、現実感が湧かない人間が他にもいることに安堵し、また、メンタルの症状で離人症というのに当てはまるとわかりそれで折り合いを付けた。
故ホーキング博士は宇宙がホログラムである可能性を考察し、遡ると古代ギリシャの哲学者プラトンも近い洞察をしている―本作は科学的、哲学的にも奥深いテーマなのだ。12月公開予定の新作に期待!
●加西 来夏 (かさい らいか)
映画は年間100本以上視聴、訪問国は39ヵ国~の旅する映画ラヴァー/日本内閣府HPに“ムーンショット目標”という項目があり『2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現』と記載があります。これって…?
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