2017年、ニューヨーク五番街のティファニーで朝食が食べられるようになったというニュースが飛び込んできて驚いた。
「え、そもそもそういう話ではないの?」と思われるかもしれないが、ティファニーは宝飾店であり、もちろんカフェなど存在しなかった。あくまでリッチな象徴として描かれているだけである。
テーマソング“ムーン・リバー”の甘いメロディに酔いしれていると、まだ誰も歩いていない早朝のマンハッタンを、ばっちり決めた髪型とロングドレスで闊歩する女性が登場する。それがオードリー・ヘプバーン演じる主人公ホリーなのだが、すべてが様になっていてため息が出るほど美しい。
それだけではない。冷蔵庫からは何故かちらりと靴がのぞき、電話のベルがうるさいからと旅行カバンにしまってしまう破天荒ぶり。様々な男性とデートをしてその見返りのチップで日銭を稼ぐという、一般的には反感を買いそうなライフスタイルすら魅惑的に映る。
そして「いつかお金持ちと結婚を」と夢見る中、売れない小説家のポールと出会い・・・振り回される男達の身になればたまったものではないが、彼女はただ思うままに生きているだけであり、決しておバカさんではない。会話の端々にユーモアや洞察力の鋭さが光っているし、芯の部分では「誰のものにもなりたくない、自分は自分のものでしかない」という確固たるスタンスを持っているのだ。
そうやって誰にも縛られず自由気ままに生きてきたからこそ、彼女がついに変容するラストシーンは素晴らしい。ポールと過ごした特別な日、タクシーの中で互いにぶつけ合った本音が、それまでの彼女を一変させたのだ。恋愛映画とみなされることが多いが、一人の女性の生き様を描いた、時代を問わないヒューマンドラマとして観るべきではないだろうか。
なお、原作の小説ではホリー自身もその結末もだいぶ異なる。強いて言うならば、もっと悪女でもっと自由奔放…それはそれで、読んでみる価値は十分にあると断言する。
●加西 来夏 (かさい らいか)
映画は年間100本以上視聴、訪問国は39ヵ国~の旅する映画ラヴァー/ヘプバーンは冒頭で食べていたクロワッサンが実は嫌いだった、”ムーン・リバー”の作曲者はずっと彼女に片思いをしていた等、映画の裏話も結構面白いです。
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