妊娠を希望する未来のママたちへ
オリンピックが開催されている東京では新型コロナウイルスの感染拡大が続いております。明るいはずの夏ですが、人流の抑制ができていない街を歩む人々の姿も心なし影を背負っているように見えるのは私の主観なのでしょうか。そんな中でも夕風が頬を撫でる時間帯に自宅のテラスでビール(私は嗜みませんが)と枝豆で一息つく方も多いかもしれません。
枝豆には多くの葉酸が含まれています。葉酸はビタミンB群の仲間で、枝豆以外にも緑黄色野菜に多く含まれていて、私たちの身体の中で重要な役割を担っています。特に、妊娠を希望する女性や妊娠期のママには必須の栄養素です。稀ではありますが、葉酸の不足によって、生まれてくるベビィに障害が出ることがあります。神経管閉鎖障害と呼ばれるこの障害では流産や死産、あるいは歩行が困難になる二分脊椎などが現れることがあります。
日本では妊娠初期に母子手帳が配られ、その中に葉酸を1日400μg(0.4mg)摂取するよう伝えられていますが、神経管が形成されるのは妊娠7週目あたりですので、できれば、妊娠を希望している方はそれ以前から葉酸が多く含まれている食材や場合によってはサプリメントで補うことが望ましいと思われます。
葉酸は赤血球を作る上でも重要な栄養素です。閉経前の女性では生理により失われる血液が多いため、比較的貧血が恒常化している方もおられます。そうした場合、鉄剤などが処方されますが、それに加えて葉酸の不足を想定して食事を召し上がるとよいでしょう。あるいは赤血球(ヘモグロビン)に含まれる鉄は動物由来のヘム鉄で、レバーなど主に肉や魚に含まれていますので、メニュー選びの時に適切な量の鉄含有食材もお薦めかもしれません。
鉄自体は広く食品に含まれるのですが、植物由来の非ヘム鉄は腸から吸収される割合が5%程度です。一方でヘム鉄は30~40%の吸収率と言われています。妊娠中のママたちは妊娠後期には特に貧血になりやすいそうで、昔はレバーを食べるとよい、と言われていました。ところが、レバーなどに含まれるビタミンAの過剰摂取は胎児に奇形が起こる可能性があると国立健康・栄養研究所でも警告しています。どの程度で過剰摂取になるのでしょう? ハードルと言われている摂取上限量は平均2700µgです。牛レバーでは100gで1100µgですが、鶏のレバーでは14000µgですので、100g食べれば、あっという間に上限値を超えてしまいそうです。ビタミンAは脂溶性ビタミンで、体内に蓄積もします。もちろん多くの重要で有用な働きもありますので、召し上がる時には量に注意することを念頭に置くとよいでしょう。
新型コロナウイルスによるパンデミックによって全世界が暗い気持ちで過ごすなか、新しい命は希望の光です。世界中の新生児が健やかに誕生することを祈らずにはいられません。
神楽坂発 お身体へのお便り No.96
安田祥子 Akiko Yasuda
株式会社jast代表取締役会長
統括メディカルアドバイザー、フリーライセンスドクター、「農林水産省 産学共同プロジェクト」メンバー
最愛の娘の突然の死をきっかけに、健康は当たり前のものではなく、自らの手で守り育むものと痛感し、分子生物学や医学などを学ぶ。2013年(株) jastを設立し家庭と医療機関を結ぶ架け橋としてのアドバイザー育成に取り組む。これまで200件以上のクライアント様の健康・医療・日常生活のご相談に応えるとともに、教育部門JAMAで主席講師を務め分子生物学の観点から細胞に働きかける栄養素や最新の遺伝子研究など多岐に渡る講義を行う。数多くの機関誌への執、講演会、セミナーなども行っている。
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