「帝国ホテルのサブスク」の もう一つの狙い
前回この欄で、「コロナ禍で新サービス 帝国ホテルで王様気分」と題して、コロナ禍で訪日外国人が大幅に減少したため、「帝国ホテル」が経営方針を大幅に変更し、主に国内客をターゲットに、長期で宿泊でき且つ大幅な料金サービスを行うこと(「帝国ホテルのサブスク」)をご紹介した。そのサービスは全国の高級ホテルに一大ブームを引き起こし、これらのホテルに宿泊の予約電話が殺到した、ということである。
実は、ホテル側がこの様な前例のない経営方針を公表したのには、もう一つの狙いがあったとみられる。
帝国ホテルの本館が建築されたのは、およそ130年前であり、建物は旧式の西洋建造物であった。第二次大戦後、日本は急速な経済発展を成し遂げ、諸外国の資本が大挙して日本に流入し、訪日の外国人観光客も東京を始め日本各地に押し寄せ、外国資本による近代的なホテルが雨後春筍の如く、各地の大都市にも進出してきた。
もともとは、世界各国の政治家、大富豪や各界の有名人のみが宿泊した日本最高級の帝国ホテルは、今となっては、各種電子設備をもつ豪華な現代的建築の新型ホテルには対抗できない状態に落ち入った。日本一という過去の栄光を取り戻すには、全面的に建て替えるしかないのが残された最後の手段であった、と思われる。
帝国ホテルがこの決定を正式に発表したのは、今年の3月25日であった。コロナ禍の終息がなかなか予測出来ず、訪日の外国人観光客が途絶える中で、外資系高級ホテルとの競争も見据えて、15年間に2,000億円を超える巨額の投資を要する方針を、断腸の思いで決意した、とみられる。
同ホテルの敷地面積は約2.3ヘクタールを占め、東京都のほぼ中心に位置し、皇居と東京駅の中間にあり、日本最高の政治、経済を司る官庁機関が近くに集まる一等地にある。タワー館の建て替えは2024年度に着工し、30年度に完成予定である。一方、本館の工事は31年度に始まり、36年度に完了させる計画という。現在ある建物の営業は、それぞれの着工が始まるまで続けるという。
日本では、皇居に隣接する高層ビルには、一定の高さの制限があるため、新しく出来上がる同ホテルの高さや部屋数などは未定という。いずれにせよ、同ホテルは『日本の迎賓館としての役割を果たす特別な役目もある』、という自負を持っており、その建て替えは日本人ばかりでなく、海外の人々からも強い関心が寄せられている。
日本は現在先進7か国の一員であり、世界政治や経済の動向に関する様々な国際会議が、今後も東京で行うようになるであろう。そのため東京には帝国ホテル級の施設が必要であることは言うまでもない。
伝統を誇る超高級ホテルの関係当局者が、このコロナ禍の先行き不透明な中にあって建て替えに踏み切った勇気は、将来、快挙と高く評価されることが期待される。
今どき ニッポン・ウォッチング Vol.210
早氏 芳琴