スマホの電源を切って健やかな眠りを
「啓蟄の円空仏は素足かな 楠本憲吉」
3月の6日頃から春分までは啓蟄と呼ばれています。私が円空のことを知ったのは亡き北森鴻氏の小説でした。造仏聖といわれる円空は17世紀に日本各地を遊行し、野にある木の形を生かし独特な“円空仏”と呼ばれる仏像を多数彫り上げました。円空は“自然に逆らわずに、あるがままでいることが貴い”と説いたと伝えられています。
現代に生きる私たちは自然との距離が離れがちですが、地球上で生活する全ての生命は地球のリズムから無縁ではありません。古来より人は太陽とともに起きて活動し、日の沈んだあとは眠るといった太陽の巡行に沿った生活を送ってきました。このリズムは今でも私たちの体内に刻み込まれています。自宅生活が余儀なくされる昨今では特にそのリズムは乱れがちになります。夜遅くまでスマホやパソコン、TVなどに時間を費やすとどういった不具合が現れるのでしょう?
スマホなどの画面からはブルーライトと呼ばれる強い光が出ています。このブルーライトは可視光線の中で最もエネルギーが強い波長380~500ナノメートルの青色の光です。ブルーライトは目の疲れや痛みを引き起こすだけでなく、私たちの体内時計のリズムをも狂わすと言われています。
研究によれば、過剰にブルーライトを浴びると網膜の細胞に青色を感知するために必要な光受容体タンパクが異常に蓄積され、その結果網膜細胞にダメージを与えるそうです。また、睡眠を促すメラトニンの分泌も抑制されるだけでなく、スマホなどから出る電磁波によってメラトニンそのものが破壊される可能性もあります。
メラトニンは呼吸や脈拍を緩やかにして、身体内部の体温(深部体温)を下げ、私たちを睡眠に導くホルモンです。メラトニンは昼間の明るい光で分泌が抑制されます。コンビニなど人工照明の光が強い場所では夜間であっても分泌が低下します。メラトニンは体内時計と環境光の両方によって調節されています。そのため寝室の光の調節も睡眠にとっては大切です。
メラトニンの分泌は10歳くらいをピークにして、加齢とともに徐々に衰えるそうです。メラトニンはサプリメントとして欧米ではドラッグストアなどで気軽に購入でき、日本でも並行輸入での購入が可能ですが、眠る前に服用してもわずかに入眠が楽になる程度で、ご利用の場合は睡眠検査を受けて服用の時間帯を決めることが望ましいと思われます。
サプリメントに頼らずに、むしろ地球のリズムに合わせて過ごす日々を続けたいものです。メラトニンが分泌され始める午後9時にはスマホなどの電源を落とし、気持ちが落ち着く呼吸法や瞑想などで自然な睡眠を惹起するよう心掛けてもよいかもしれませんね。
ハワイにお住まいの方は波や風の自然音に合わせて緩やかな時を寝室に招き入れることも可能なのではありませんか。
神楽坂発 お身体へのお便り No.90
安田祥子 Akiko Yasuda
株式会社jast代表取締役会長
統括メディカルアドバイザー、フリーライセンスドクター、「農林水産省 産学共同プロジェクト」メンバー
最愛の娘の突然の死をきっかけに、健康は当たり前のものではなく、自らの手で守り育むものと痛感し、分子生物学や医学などを学ぶ。2013年(株) jastを設立し家庭と医療機関を結ぶ架け橋としてのアドバイザー育成に取り組む。これまで200件以上のクライアント様の健康・医療・日常生活のご相談に応えるとともに、教育部門JAMAで主席講師を務め分子生物学の観点から細胞に働きかける栄養素や最新の遺伝子研究など多岐に渡る講義を行う。数多くの機関誌への執、講演会、セミナーなども行っている。
シェアする