深掘り豆知識& 日本各地のお雑煮
日本の元旦の朝の食卓に欠かせないお雑煮。昨今はオアフ島でも材料が手に入りやすくなり、その家由来の雑煮を作る家庭が多くなりつつあります。ここでは、知って楽しいお雑煮の由来や豆知識、各地の特色あるお雑煮をご紹介しましょう。
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正月に餅を食べる理由
稲作信仰と平安時代の宮中行事が由来
正月に餅を食べる習慣の始まりは、平安時代の宮中の正月行事で、長寿と健康を祈る歯固めの儀といわれています。日本には古から、穀霊が宿る稲を神聖なものして崇める稲作信仰がありますが、その稲から取れる米は生命を維持する尊い食べ物であり、米から作られる餅や酒には特に強い力が宿るとされていました。このことから日常である「ケ(褻)の日」に対する特別な日「ハレ(霽)の日」に餅がつかれるようになりました。
古神道では、神々や祖霊が降りてくる日没から1日が始まるという考え方があります。そのため昔の日本では、元旦が始まる大晦日の夕方に神前に鏡餅が供えられ、日が昇った後に降ろされて、神様からの「くだりもの」として食されていました。餅は長く伸び切れにくいため、長寿や家の繁栄も象徴しています。
雑煮の起源
武家料理の烹雑(ほうぞう)
雑煮の起源には諸説ありますが、武家料理の烹雑が変化したという説が最も有力とされています。「烹」には「煮る」という意味があり、烹雑は乾物や野菜などを餅と一緒に煮込んだ料理です。
元々野戦料理だった烹雑は、次第に儀礼的なものに変化し、武家社会における儀礼料理のひとつになりました。
「雑煮」初登場は室町時代 京都吉田神社の『鈴鹿家記』
雑煮が文字として初めて登場したのは、室町時代に記された『鈴鹿家記』という文献です。京都吉田神社の神官だった鈴鹿家が宮中祭祀などの社務を記録したのもので、その中の1364年(貞治3年)正月の項に「雑煮御酒被下」「雑煮晩食」「雑煮出」と記されています。
餅なしの雑煮 畑作地帯の「餅なし正月」が由来
江戸時代以前、稲作以外で畑作を行っていた山間部や島嶼部では、正月3が日に餅を神仏に供えたり、食べることを禁忌とする「餅なし正月」という考え方がありました。米や餅はその土地からは収穫されない外からの食べ物だったため、土地の神仏に豊饒を願う儀式でのお供物としては不適当とされていました。代わりに里芋や大豆など、土地で収穫された作物を神仏に供え、それらを具にした雑煮を作っていました。その名残で、現代でも餅なしの雑煮を作る地域があります。
お雑煮で日本一周! 各地のユニークなお雑煮をご紹介
地域ごとに作り方が違う雑煮には、その土地の文化や気候などの特色が表れています。具はその地域特産の野菜や海産物などが使われることが多く、出汁は鰹節や昆布、煮干しやスルメなど様々。汁の仕立てで最も多いのが、全国の約7割の地域で使われているというすまし汁。次に合わせ味噌、そして関西地方に多い白味噌と続きます。そのほか、塩、醤油、白醤油、麦味噌や米味噌、納豆汁や小豆汁の雑煮など様々です。入れる餅は焼いたものや丸いものなど様々ですが、全国的には四角い切り餅を焼いたものが多く、関西地方や中国地方では焼かない丸餅が主流です。
北海道 鶏ガラ雑煮
北海道には、全国各地から移住した開拓者たちが築いた多様な食文化があります。雑煮の種類も様々ですが、出汁は鶏ガラを使い、砂糖が多めに入ったものが多いようです。なると巻きの代わりに、真ん中の柄が巻かれていない「つと」を使うのが主流。
青森県 鯨雑煮
捕鯨の歴史が長い青森県八戸市には、鯨を使った雑煮があります。すまし汁で、人参、大根、牛蒡、焼いた角餅、鯨の皮を入れます。鯨雑煮は捕鯨が行われている長崎県や山口県でも食されています。
岩手県 クルミ雑煮、 アワビ雑煮
宮古市周辺には、醤油仕立ての雑煮にクルミをすり潰したたれが添えられ、中の餅をたれにつけながら食べるクルミ雑煮があります。漁が盛んな三陸海岸沿岸ではアワビを使った贅沢な雑煮も。仕上げにイクラがトッピングされることもあります。
宮城県 焼きハゼ雑煮
仙台市周辺の雑煮の出汁は松島湾近海で捕れたハゼの焼き干しで、汁の仕立てには酒、塩、醤油が使われます。焼いた角餅に、具の野菜は大根、人参、牛蒡などを野外に一晩出して凍らせたものが使われます。その他の具は凍豆腐、里芋の茎を干したもの、ずいき、セリ、蒲鉾など。ハレの日の特別感を表すため、お椀からはみ出すほど大きなハゼの焼き干しがのせられます。
秋田県 男鹿雑煮
ハタハタ漁が盛んな男鹿市では、料理にハタハタの塩辛が原料の魚醤「しょっつる」が使われます。雑煮にも使われますが、男鹿市は日本最北端のフグ漁が盛んな地域でもあるため、出汁はフグでとるのが主流。具は長ネギ、ゴボウ、ワカメなど。餅は焼いた角餅を使います。県内その他の地域では、具と出汁に比内地鶏を使ったものや、きりたんぽが入ったものも。
福島県 こづゆ雑煮
会津若松市にはホタテの貝柱でだしをとる「こづゆ」という郷土料理があり、雑煮もこづゆと同じように作られます。具はさいの目に切った凍豆腐、しらたき、インゲン、シイタケ、キクラゲなど。焼いた角餅が入ります。
千葉県 幅海苔雑煮
房総半島特産の幅海苔(ハバノリ)が仕上げにたっぷりとかけられた雑煮。すまし仕立ての汁に、具は大根、里芋、人参、油揚げなど。餅は焼いた角餅が使われます。幅海苔は食べる直前に炙り、手で揉みながらふりかけます。
東京都 江戸雑煮
昆布と鰹で出汁をとったすまし汁で、薄口醤油で調味されます。焼いた角餅が使われ、具は海老、椎茸、蒲鉾、鳴門巻きなど。仕上げに小松菜、江戸前海苔、松葉柚子などがのせられます。
新潟県 越後雑煮
醤油仕立てのすまし汁に新潟県特産の鮭の頭や身、「とと豆」と呼ばれる火を通したイクラが入ります。具は大根、人参、牛蒡、長葱、蒟蒻、銀杏などで、焼かない角餅が使われます。
福井県 福井雑煮
鰹や昆布で出汁を取った味噌仕立ての汁に、焼かない丸餅を使います。具は「株を上げる」にかけた蕪(かぶ)と蕪の葉。黒砂糖を入れる地域もあります。
愛知県 餅菜雑煮
鰹出汁に味噌や醤油で仕立てた汁に、餅菜と呼ばれる青菜、花鰹、好みで黒砂糖をのせます。焼かない角餅が入ります。江戸時代の東海地方では、武家の雑煮の具は餅菜(正月菜)という小松菜に近い葉物のみでした。餅と餅菜を一緒に箸にとって食べることで「名(菜)を持ち(餅)上げる」という縁起を担いでいました。
京都府 京雑煮
昆布だしに白味噌の汁で、あらかじめ炊いた丸餅を入れます。具は、海老、鮑、ナマコ、大根、人参、里芋(親芋と小芋)、昆布、開き牛蒡など。昆布は喜ぶ、親芋は出世、子芋は子孫繁栄、根を張る大根は安定した生活、開き牛蒡は開運にかけています。
兵庫県 鯨雑煮、 焼き穴子雑煮
青森の鯨雑煮は皮の部分を使いますが、兵庫県では赤身を使います。その他の具はブリの切り身、蕪、大根、牛蒡、人参など。以前、神戸市長田区に南氷洋へ赴く捕鯨船の乗組員が住んでいたことが由来なのだそう。一方、焼き穴子雑煮は昆布と鰹で出汁をとったすまし汁に、具は大根、里芋、青菜、蒲鉾、三つ葉など。鶏肉や焼き豆腐が入ることもあります。どちらも焼かない丸餅が使われます。
奈良県 きなこ雑煮
鰹で出汁をとり、白味噌か醤油で仕立てます。具は大根、人参、里芋、豆腐など。焼いた餅が使われます。餅は椀の蓋に入った砂糖入りのきな粉に絡めながら食べます。大根、里芋、豆腐を入れて白一色にしたり、人参を入れて紅白にすることも。
和歌山県 真菜雑煮
干し鮎で出汁をとった白味噌仕立ての汁に、焼かない丸餅を使うのが一般的。具は日本の伝統野菜である真菜(まな)、金時人参、里芋など。小豆入りの餅を混ぜる習慣もあり、小豆入りに当たった人にはその年に福が訪れるといわれています。蒲鉾の生産が盛んな有田市では、蒲鉾の材料になる「えそ」という魚で出汁を取ります。
島根県 小豆汁
小豆汁の中に焼かない丸餅の入った雑煮で、お汁粉のような甘みがあります。昔は塩味で、丸餅に黒砂糖をかけたものでした。
広島県 牡蠣雑煮
牡蠣と昆布で出汁をとり、醤油で味を調えたすまし汁が主流。牡蠣は「福ををかき取る」に掛けたり「賀喜」という当て字が使われる縁起の良い食材とされています。味噌仕立てで、焼き穴子や河豚を入れる地域も。具は蒲鉾と芹(セリ)で、焼かない丸餅が入ります。
徳島県 うちちがえ雑煮
徳島県の祖谷(いや)地方には、いりこと昆布で出汁を取ったすまし汁に「マイモ」と呼ばれる里芋の親芋と豆腐が入った、餅なしの雑煮があります。山間部にある粗谷では稲の栽培が難しいため、昔は米や餅が貴重品だったことに由来します。具の盛り付け方は独特で、腕の底にマイモを3つ敷き、その上に大き目に切った2つの豆腐を十字型に重ねてのせるというもの。これは戦で平家が刀を交えた状態を表していると言われたことから、打違え(うちちがえ)雑煮と呼ばれるようになりました。
香川県 餡餅雑煮
煮干しで出汁をとった白味噌仕立ての汁に餡子(あんこ)入りの餅が使われる珍しい雑煮です。具は大根、人参、里芋で、仕上げに香りづけとして青海苔がかけられます。
福岡県 博多雑煮
焼きアゴで出汁を取り、や鰤(ブリ)、焼き豆腐、干し椎茸、高菜の一種の「カツオ菜」など。カツオ菜は漢字で勝男菜と書き、縁起が良い博多の伝統野菜です。栗の木の枝の先端を削った「栗はい箸」で食べます。餅は焼かない丸餅。
長崎県 具雑煮
鰹や昆布、焼きアゴで出汁をとった汁に、鰤、海老、干し海鼠(ナマコ)、つくね、海老、蒲鉾、大根、人参、里芋、長崎白菜、椎茸、クワイ、凍豆腐など、たくさんの具が入ります。具の数は割れない奇数。餅は焼丸餅。
熊本県 肥後雑煮
鰹や昆布、スルメなどでとった出汁に、具は鰤、海老、鯛、牡蠣、蛤、大根、人参、牛蒡、里芋、椎茸、蒲鉾、三つ葉、肥後野菜の水前寺もやしなど。丸餅は焼かずに入れます。
鹿児島県 さつま雑煮
海老漁が盛んな鹿児島県では、具と出汁とりに焼きエビを使います。江戸時代には松の薪で炙って干したものが島津藩主に納められていました。その他の具は子孫繁栄を意味する里芋、まめまめしく元気に動くことを意味する豆もやしなど。
沖縄県 中身汁
沖縄県には、餅が入った雑煮の食文化はありません。正月などのおめでたい日には豚のモツを使った中身汁や甘い白味噌仕立てのイナムドゥチが食されます。琉球王朝時代の沖縄には、正月料理を作るために豚を潰す習慣がありました。そのモツを新鮮なうちに調理した中身汁は特別なご馳走で、現在でも正月の食卓に欠かせない料理です。
<参考URL>2020年12月23日アクセス
・農林水産省 全国お雑煮ガイド https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1101/spe2_02.html
・シェフごはん 日本全国お雑煮マップ https://chefgohan.gnavi.co.jp/season/ozoni/
・全国餅工業協同組合 お雑煮マップhttp://www.omochi100.jp/kaibou/ozouni.html
・お雑煮研究所 https://www.zouni.jp
・Wikipedia 雑煮https://ja.wikipedia.org/wiki/雑煮
<参考文献>
・講談社(1998)『四季日本の料理 冬』
・熊倉功夫(2007)『日本料理の歴史』吉川弘文館
(日刊サン 2020.12.31)