箱の中身の話
「パンドラの箱」というと、触れてはならないものの代名詞ないしは「知らぬが仏」の代替用語として使われることが多くあります。一度箱を開けてしまうと、そこからは災厄やトラブルが飛び出してきて、平和であったはずの世の中が一変してしまう、と。
「パンドラ」元々はギリシャ神話に出てくる女性。かつて地上に男性しかいなかったとのこと、神ゼウスが彼女に災いを封じ込めた箱を渡して人間界に送り出します。彼女は好奇心に負けて箱を開けてしまい、人間の世界に災いが解き放たれてしまいました。余談ですが、神話は往々にして男尊女卑。当時はそういう風潮だったのでしょうが、まるで女性がこの世に災いをもたらしたかのように書かれるのは本意ではありませんね。
さて、「わざわい」は「禍」とも書きます。あまり見慣れない漢字でしたが、今はほとんどの方が読めるのではないでしょうか。そう、コロナ禍(か)、という文脈でよく使われる漢字です。ハワイも依然コロナ禍ではありますが、観光が段階的にではありますが再開され、感染者数も少しずつ落ち着きを見せています。
一方で悲しいことに、命を落とされた方、健康に支障をきたしてしまった方、お仕事を失ってしまった方が大勢いらっしゃいます。閉店してしまったお店や、形態を変えざるを得なくなってしまったビジネスも多くあります。いきいきのびのびとした日々を失った子どもたち、青春の1ページを破られてしまった若者たち、人生設計をまるっと変えなくてはならなくなった大人たち。
コロナはパンドラの箱の中から飛び出してきた災厄のうちの一つだったのでしょうか、とコロナを捉えるにはあまりにも多くの爪痕を残し続けています。いつの日か、「コロナ騒動大変だったよね」「今では考えられないけど、あの時は本当に怖かったよ」と笑える日が来るのでしょうか。その日まで、私たちは生きていかねばならないのです。
「パンドラの箱」には続きがあります。パンドラが神から渡された箱を開けてしまい、災厄が飛び出した後の話です。災厄に驚いた彼女は慌てて箱を閉じようとします。すると、その箱の中にはたった一つのものが残っていました。その名は、希望。希望だけが、箱の中にぽつんと残されていたのでした。そこでこの話は終わり、その本当の意味は全て読み手に託されるのです。
コロナが出てしまった後の箱の中にも、希望は残されている。私たちにはまだ、持つべき希望がある。私はそう読み解きたいと思っています。
CAN OF ALOHA No.41
金平 薫 (Kaoru Kanehira)
香川県出身、現在はハワイ某所にて武者修行中。 日々のあれこれを、ゆるりとお伝えできたら幸いです。美味しいものには目がありません。 なんでもない毎日は Instagram:kaoru_channel をご覧ください。