年金の離婚分割で 老後はバラ色か?
最近のコロナ禍で夫婦が一緒に生活する時間が増えたことによる“コロナ離婚”が増加傾向にあると言われています。離婚すると財産を分け合うだけでなく、現在受け取っている公的年金、将来受け取る公的年金も夫婦間で分け合うのが年金分割です。離婚後に分割された年金額を知った後、そんなはずではなかったと慌てることの無いよう日頃から制度を正しく理解して備える(?)ことが必要です。
この年金分割制度は「合意分割制度(任意分割)」と「3号分割制度(強制分割)」があります。まず2007年4月から実施された合意分割制度を説明します。共働き夫婦(2人とも厚生年金に加入)のケースです。
(1)当事者(元夫か妻のどちらか)からの請求により、それぞれの厚生年金の標準報酬(保険料納付記録)の合計額を2人で分割する制度です。夫や妻の年金額を直接分割するのではなく、2人の婚姻期間中の厚生年金の報酬額総額をそれぞれ計算し、報酬額総額の多いほうから少ないほうへ分割します。
(2)分割の割合は合意により決定します。合意に至らない場合は裁判所で分割割合を決めることが出来ます。分割する割合は、夫婦の標準報酬の合計の50%が上限です。共働きして、夫婦で厚生年金に加入していた期間については、夫婦の合計額の半分が分割後の持ち分の上限となります。
次に2008年4月から実施された3号分割制度を説明します。会社員と専業主婦(主夫)のケースです。①政府が本人の意思にかかわりなく、職権で年金記録を分割するものです。②具体的には2008年4月1日以降の国民年金の第3被保険者(家庭における専業主婦・主夫)期間については、夫の年金記録の半分を妻に強制的に移します。その配偶者である夫の第2号被保険者(サラリーマン、OL)の厚生年金保険の標準報酬を自動的に夫婦で1/2ずつに分割するものです。③「3号分割」は年金事務所に請求すれば、自動的に行われます。
ここで年金分割の注意点を説明します。
(1)妻は夫の1/2がもらえるわけではありません。結婚前の夫の厚生年金加入期間は分割の対象になりません。
(2)年金計算の基になる報酬額の分割を受けるだけですので、夫婦のいずれかの老齢厚生年金のうち報酬比例部分が増加しますが、定額部分は増加しません。基礎年金は分割の対象外です。
(3)妻自身に老齢年金受給権が無ければ夫から分割を受けても、年金を受けることはできません。
(4)妻自身が受給開始年齢(60歳から65歳)にならなければ、年金が支給されません。夫が既に年金受給中であっても、妻が支給開始年齢に達していなければ、分割を受けた部分も含めて妻に年金は支給されません。一方、分割すれば夫の年金は翌月から減額されます。
(5)離婚後2年以内に手続きをする必要があります。
(6)分割された年金の保険料納付記録は元の夫が亡くなったり、自分が再婚したりしても消えることはありません。再婚すると受給権を失ってしまう遺族年金とは違います。
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市川俊治
民間企業勤務後、外務省改革の一環として始まった領事シニアボランティア制度の第1期生としてNY更にSF総領事館に合計6年間勤務。その官と民の経験・知識を基に海外在住者の年金・国籍・老後の日本帰国の問題のアドバイスを行っている。