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木村伊量の ニュースコラム

【ニュースコラム】どうする家康 どうなるNHK

 NHKテレビで放映中の大河ドラマ「どうする家康」の効果なのでしょう。所用で愛知県岡崎市を久々に訪れた機会に、徳川家康が生まれた、ゆかりの岡崎城址に足を運びました。大勢の観光客でにぎわっています。

 岡崎はわたしが新米の新聞記者時代に赴任したまちですが、当時はゴミがたまっていた城の濠もきれいに掃除され、市を挙げて家康ブームを盛り上げようという熱意がうかがえます。

 「戦国もの」には目がないわたしですが、これまで観たところの感想は、正直に言って少々がっかり。主役の家康役の松潤(まつじゅん)こと、若者に人気のアイドルグループ「嵐」の松本潤さんは、お目目パッチリのイケメンで、どうも従来の家康の印象と違い過ぎて、しっくりきません。妻の瀬奈とは現代風の「ラブラブカップル」だし、LGBTを意識してかレスビアンの姫様も出て来るし、なんだか戦国ドラマの枠にはおさまりません。

 大河ドラマが始まったのは東京五輪の前の年、1963年でした。1965年の「太閤記」は緒方拳さんの太閤秀吉とともに、高橋幸治さんが演じたニヒルな織田信長が絶大な人気を集め、信長の「助命嘆願」がNHKに殺到、本能寺の変の回の放送が延期されたほどでした。

 家康は現在まで62作を数える大河ドラマでも主役、脇役を含めて15回以上は登場しているはずですが、たいていは狡猾(こうかつ)な「狸(たぬき)オヤジ」タイプ。そのイメージが染(し)みついているからでしょうか、シニア世代を中心に「どうする家康」離れが起きているようで、視聴率もいまひとつパッとせずに気の毒になります。

 考えてみると、わたしたち昭和世代は「テレビといえばNHK」という時代とともに成長してきました。江戸家猫八さんらの「お笑い三人組」、「おばんでございます」の毎度のあいさつが流行語になった宮田輝さん司会の「ふるさとの歌まつり」、そして朝ドラ……NHKテレビと、アメリカからやってくる「ルーシーショー」や「コンバット」「逃亡者」などの洋ものドラマに〝洗脳〟されて、少年時代を過ごした気がします。

 しかし、いまや若い世代は、テレビなどスポーツ中継以外は観ようとしません。若者に人気のアイドルを大勢起用したからといって、時代劇のテレビ画面に張りつく若者は多くないはずです。そこにNHKの大いなる「勘違い」と、世の中の感覚との深刻な「ずれ」があるような気がしてなりません。

 「国民のNHK」の看板はとっくに色あせています。若者にとどまらず、政権にも媚(こ)びを売っているのではないでしょうか。

 ここ10年ほど前から、NHKニュースを見る機会がさっぱり減りました。「政府が右というものを左とはいえない」。就任会見で公共放送の中立性を危ぶませる発言をし、その後も物議をかもす右寄りの主張を続けた会長にうんざりして、優秀な記者たちがNHKを去りました。

 生前の安倍晋三元首相に「もっとも食い込んだ」というNHKの女性政治記者の解説を聞くと、安倍氏や政府・自民党の立場の弁護ばかり。彼女が画面に登場すると、わたしはチャンネルを切り替えたものです。一方で、「クローズアップ現代」のキャスターを長年務めた国谷裕子(くにや・ひろこ)さんに対して、自民党のある幹部が酒席で「彼女、ちょっと偏(かたよ)り過ぎだよな」と不平を鳴らすのを、直接聞いたことがあります。

 国谷さんの番組降板の裏に、NHK幹部による政権への「忖度(そんたく)」があったのではと噂が流れましたが、真相はわかりません。

 てっきり民放のワイドショーかと思ってテレビを観ていたら、NHKとわかってびっくり、ということも幾度となく。「ジャーナリズムの一翼を担うならば反権力を貫け」とは、わたしは必ずしも考えませんが、NHKに硬派の「骨っぽさ」を期待するのはもう無理なのでしょうか。NHKニュースが世を震撼(しんかん)させる「特ダネ」を報じることなど、めったにありません。

 それでも、NHKの豊富な人材と取材費にものをいわせて、「日本海軍400時間の証言」など数々の名特集番組を生み出す力はまだ健在です。

 あちこちに媚びることなく、国営放送ではなく、公共放送としての気骨ある矜持(きょうじ)を取り戻してほしい、と願うばかりです。

(日刊サン 2023.4.12)

木村伊量 (きむら・ただかず)

1953年、香川県生まれ。朝日新聞社入社。米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員、ワシントン特派員、論説委員、政治部長、東京本社編集局長、ヨーロッパ総局長などを経て、2012年に代表取締役社長に就任。退任後は英国セインズベリー日本藝術研究所シニア・フェローをつとめた後、2017年から国際医療福祉大学・大学院で近現代文明論などを講じる。2014年、英国エリザベス女王から大英帝国名誉勲章(CBE)を受章。共著に「湾岸戦争と日本」「公共政策とメディア」など。大のハワイ好きで、これまで10回以上は訪問。

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