小さなライブハウスで地道に頑張っていたバンドを応援していたら、瞬く間に人気に火が点きメジャーデビュー。嬉しい反面、遠くへ行ってしまったようで寂しい。まさにジョニー・デップがそんな感じだった。
マフィアの全盛期も過ぎた1978年のニューヨーク。それでもなお暗躍する組織を潰すため、FBI捜査官ジョー・ピストーネ(ジョニー・デップ)は“ドニー・ブラスコ”と偽名を使い、いち構成員であるレフティ(アル・パチーノ)に近づき、宝石鑑定の腕を認められ組織への潜入に成功する。ドニーは彼らから信頼を得て、次々に情報を収集し犯罪の証拠を挙げ成果を見せるが、やがてグループ内で抗争が始まり彼自身にも命の危険が迫ってくる。
違法賭博や高利貸し、麻薬取引で上納金をボスに納めるのが仕事。時に身内で裏切りや権力争いが起き、銃撃、暗殺事件は日常茶飯事…そんな物騒なマフィアの社会で長年生きてきたレフティだが、情に厚過ぎる故何年経ってもうだつが上がらない。偶然出会ったドニーは腕っぷしが強くて頼もしく、「俺はこの街の顔だ!」と虚勢を張り、やれヒゲは剃れ、財布なんて持つな、とマフィアの流儀を教え込むと素直に聞き入れるので弟分のように可愛がる。決して表情にこそ出さないが嬉しかっただろう、それをドニーも感じており、だからこそ共に過ごす時間が増える毎にドニーは自らに課された任務とフェイクだったはずの今では確かな絆の狭間で苦悩する事となるー“スカーフェイス”や“ゴッド・ファーザー”のような派手さはないが、二人のキャラクターが丁寧に描かれ、またその名演が共鳴し倍増する哀愁漂うヒューマンドラマだ。
“パイレーツ・オブ・カリビアン(2003)”のジャック・スパロウ船長役で不動の地位を築いたジョニー・デップ。が、それ以前の“デッドマン”や“妹の恋人”など個性的で心に残る映画も多々あり、特におすすめしたいのが本作。近年は私生活面で大変だったようだが、今後とも魅力的な作品、そして演技を変わらず応援し見続けたい。
●加西 来夏 (かさい らいか)
映画は年間100本以上視聴、訪問国は39ヵ国~の旅する映画ラヴァー/ジョー・ピストーネ捜査官の妻役で出演していた女優アン・ヘッシュが先月事故で亡くなったそうで、すぐにこの作品での美しい姿を思い出しました。どうぞ安らかにお眠りください。
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