「大丈夫ですか?」。トントントンと軽く肩を叩かれて起きると、目の前には救急隊員と担架。ここは新宿歌舞伎町。飲みすぎてうっかり建物の空きスペースで仮眠した結果、親切な人が通報してくれたようだ。
東京都庁があるから新宿が日本の中心!という漠然とした憧れで新宿の会社に就職、徒歩圏内に住んでいた。そして、趣味の飲み歩きで歌舞伎町には随分世話になった。一度、紫や純白のスーツを着た御一行に出くわした程度で個人的には恐怖を感じなかったが、バーで昏睡強盗に合った社員がおり、しばらく歌舞伎町への出入りが禁じられた。今でこそ海外観光客の間でゴールデン街やロボットレストランが人気になり治安も改善されたものの、油断は禁物だ。安全第一なら、近くの老舗・伊勢丹デパートで食品コーナーやブランドショップを楽しみ、上階にある鮨屋“魯山”で贅沢なランチをぜひ。ワインリストも秀逸で旬のネタも間違いなく美味い。
春先は、特に新宿御苑は外せない。目黒川や千鳥ヶ淵公園と並ぶ桜の名所で、アクセスも良く広いのでシートを敷いて比較的のんびり出来る点が高ポイント。新宿の高層ビルをバックに桜が映え、紅葉シーズンも同じように楽しめる。温室もあるので季節ごとにスイレンや蘭も見られ花好きには嬉しい。
夜景を見るならどこ、と言われるとやはり無料で行ける高さ202mの東京都庁展望室だろうか。しかし、パリのエッフェル塔と同様その建物自体がライトアップされて美しいので、界隈のパークハイアット東京でジャズの生演奏も聞ける欲張りセットな“ニューヨークバー”か、京王プラザホテルのスカイラウンジ“オーロラ”も良かった。ちなみに京王は夏場、宿泊客でなくとも入場可能な有料プールがあり、都会のど真ん中で涼めて非常に優雅な気分を味わえる。
1日の乗降客数が353万人と世界一を誇る新宿駅。渋谷や六本木、池袋、それぞれ特色があり面白い街だとは思うが、毎日が人混み、熱量に溢れてどこかしらで事件が起きるカオスな新宿が大好きだった。
●加西 来夏 (かさい らいか)
訪問国は39ヵ国、好きな言葉は「世界は驚きと奇跡に満ちている」/数年前久々にゴールデン街へ遊びに行ったらフランス語、ロシア語、スペイン語が飛び交い、一瞬、あれ、今私日本だよね?と疑う賑わいようで住んでいた頃とすっかり変わっていました。
(日刊サン 2022.4.22)