南アフリカのパイロットが飛行中に座席の下に隠れていた猛毒のコブラを発見して緊急着陸したとAP通信が伝えている。
パイロットのルドルフ・エラスムス氏は、4人の乗客を乗せた軽飛行機で3日(月)のフライト中、腰のあたりを「冷たいもの」が滑るのを感じた。ちらっと目を向けると、かなり大きなケープコブラの頭部が「座席の下に後退していく」のが見えたという。
「何が起こっているのか、脳が理解できない感じだった」とエラスムス氏は語っている。少し落ち着いてから、隠れた乗客であるコブラのことを他の乗客に知らせると、「唖然とするような沈黙の瞬間があった」が、パイロットをはじめ、誰もが冷静だったという。
エラスムス氏は管制官に連絡し、南アフリカ中部のウェルコムという町に緊急着陸する許可を得た。それでもまだ10〜15分ほど飛行し、足元でヘビがとぐろを巻いている丸まっている状態で着陸しなければならなかった。「コブラの位置を見るためにずっと下を向いていた。コブラは座席の下で楽しそうにしていた」と同氏は語る。なお、同氏はそれほどヘビを恐れないが、普段は自らヘビに近づくことはないという。
ウェルコムのラジオ局「ゴールドFM」に勤務し、航空専門家でもあるブライアン・エメニス氏は、手助けを求める電話を受け、消防署に連絡した。救急隊員と蛇使いが空港に派遣され、飛行機を出迎えた。現場に最初に駆けつけ、全員が「目に見えて震えている」状態でありながらも、エラスムス氏のおかげで無事に着陸できたことを確認したエメニス氏は、「彼は冷静に、猛毒を持つケープコブラが座席の下にいる状態で飛行機を着陸させた」と語っている。
ケープコブラは、その毒の強さから、アフリカで最も危険なコブラの一種とされている。
哀れなパイロットのドラマは、これで終わりではなかった。ウェルコムの蛇使いジョアン・デ・クラーク氏と航空エンジニアのチームが2日間にわたって飛行機を捜索したが、5日(水)になってもコブラは見つからず、気づかれずに機外へ出てしまったのかどうかもわからないままだった。エラスムス氏が勤めるエンジニアリング会社は、南アフリカ北部のムボンベラという都市に飛行機を戻したかったため、コブラがまだ機内にいる可能性を考慮し、90分かけて飛行機を帰着させることになった。
エラスムス氏は、厚手の冬用ジャケットを着用し、座席に毛布を巻き、コックピットには消火器、虫除けの缶、ゴルフクラブを手の届くところに置いて、コブラへの予防策を講じた。「厳戒態勢だったと言えるでしょう」とエラスムス氏は語る。ところが、帰りのフライトでコブラが再び現れることはなく、飛行機は完全に解体されたが、それでもヘビの痕跡はないという。なお、当然ながら、乗客はこの飛行機ではなく別の方法で帰路についた。
このコブラは、南アフリカでケープコブラがよく見られる西ケープ州のウースターという町から、離陸前に機内に入り込んだとも考えられている。ウェルコムで脱出したのかもしれないし、まだ機体の奥深くに隠れている可能性もある。
エラスムス氏は、「どこか行きたいところが見つかっているといいのだが」と話す。「ただし、私の機体ではないところにね」
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写真:Shutterstock.com
(日刊サン 2023.4.7)