領事館のデータによると、ハワイ在住の在留邦人登録者約2万4千人のうち、約1万6千人強が永住者だそうです。現在のレインボー学園の生徒でもハワイ生まれの子も増えています。まずは、日本語を学習することは、短期滞在で日本に帰国する子どもたちにとって国の言葉である、“国語学習”になりますが、永住希望者にとっては母国語が英語で日本語が第二外国語、つまり“日本語教育”になるわけです。学習者にとって、そこが大きな違いになってくると思います。そんな中で、レインボー学園では、日本語で国語や算数の基幹教科の学習に取り組み、日本国内の学校と同じような学力を求めながら指導に当たってここを教育目標のひとつに掲げています。

　レインボー学園の教育の特色として文部科学省の認可を受けた教科書を使用し、系統化された年間指導カリキュラムに沿って学習していること。また、文部科学省から示された指導要領の目標を達成するために学習に取り組んでいる。授業中は、日常で使う言葉ばかりでなく、学習で習った用語を使い、日本語で考え、自らの考えを発表し、表現することに取り組んでいきます。日本の学校では普通のことのように行われていることでも、ここハワイに住んでいる子どもたちにとっては特別なことになるわけです。そのために、ある程度の日本語が習得できている素地が必要になるので、入学試験が必要になります。日本語がまったくわからない場合、入学してからが大変ですから。話せるだけではだめで、読み書きができ、使えること。それをレインボー学園は入学の条件として求めるわけです。レインボー学園での勉強はとても大変ですが、日本語を使って教科学習することが、子どもたちのより良い将来につながるということを信じて指導にあたっています。

　 文化を通じて日本語に触れる機会をつくる

 　レインボー学園では長く在籍する子どもだと幼稚部で4年間、小中学部で9年間。入園から卒業まで10年以上日本語を学ぶことになります。つまり中学卒業時にはかなりの日本語が身につきます。また、子どもたちは現地校でもアメリカの教育を受けるわけですから、日米双方の学習を経て、二つの文化を身につけることができるわけです。これだけの知識や教養を家庭教育だけで習得するにはかなり大変なことだと思います。週に1回レインボー学園で学んだことを最大限に活かすには、学習したことを日常化することが重要になってきます。つまり、家庭内でどれだけ日本語を使うかによって日本語の維持や向上にもつながっていくのではないかと思います。

　 タイムマネジメントを生活に

「レインボー学園は宿題が大変」という声をよく聞きます。１週間分の学習の定着を図るために必要な宿題が毎週出されます。子どもたちは、現地校の宿題や習いごとなど過密なスケジュールの中で、毎週、大変な思いをしながらレインボー学園の宿題をやりこなしていると思います。ここで重要になってくるのが一日の「タイムマネジメント」です。つまり、一日の生活の中で宿題に取り組む時間を作っていくことがとても大切だと思います。かつて日本で学級担任だったとき、テレビの3分間クッキングを題材に「段取り」の大切さを学ばせたことがありました。ここでは、一つの料理をつくるためにどういう手順でやっているかをメモさせながら見させました。下準備はなにが必要で、どのタイミングで鍋に火を入れ、油を注ぎ、同調理を進めれば3分で料理ができるのかを確認させたわけです。この学習でなにを学んで欲しかったかというと一つのことを完結させるのは、段取りがとても重要であり、それが一日のタイムマネジメントにもつながっていくということです。どういう順番で準備し、プライオリティをつけ、設計図を描くかの訓練です。日々の生活の中でも現地校の宿題、習い事、趣味の時間、そして日本語。日本語に触れる時間のプライオリティを上げていけばよいのではないでしょうか。

　 指導法は昔と今では変わっているか？

　 以前は学習の基礎基本や知識を確実に身につけさせるために、ドリルを何度も何度も徹底してやらせることや講義方式の指導法が主流でした。いまの教育の流れは、学習者が主体となって学び、生かせる学力を身につけさせる方向に転換してきています。つまり、学習者は与えられた課題に対してどうアプローチして課題を解決していくのか、学習者自身が主体となって思考するプロセスを重要視する指導法になってきています。「先生が言っていることを覚えればいい」から「課題に対しどう結論を導くか」ということに思考力を高め、生きた学力を求める時代になってきています。時代を切り拓くための生きた学力を身に着けることをクローズアップさせる教育が主流となっています。

　 文化を学ぶことも日本語教育にもつながります

　バイリンガルは“バイカルチュラル”であるといいます。双方の言語で考えて表現できるというのは人生を豊かにする。ハワイで生活すると日系の方、在住者の方がいかに日本の文化に興味があることがわかります。日本の文化を自ら学ぶ姿勢がとても強いです。そこから日本語を学び、日本の文化を知る。

　以前図書館に勤務したとき、読み聞かせでは日本の絵本を使いました。日本の絵本は素晴らしいです。絵本には情景が描かれ、日本を感じることができます。里山、田畑、かやぶき屋根、人間の表情、喜怒哀楽…。風景情景から日本を学ぶことができます。ハワイの図書館は日本の絵本がとても充実しています。ぜひ、活用するといいでしょう。

　 日本語教育をする際に、親がすべきこと

　親御さんもとても忙しいと思いますが、子どもに対する興味関心をもつことがとても重要です。まずは、子どもがいま学校で何を学んでいるかを知る。子どもの側からすると、自分の親が自分のことに「興味関心をもってくれている」のはとても励みになることです。いま自分がやっていることに意味を見出すかもしれない。「もう中学生だからひとりで勉強すればいい」ではなく、小学生であろうと中学生であろうと「いま何を学んでいるの？」という親のかかわりはとても重要です。日常で親と子どもの会話がどれぐらいあるか、それが重要。新聞には日本語が詰まっています。日刊サンを利用してニュースを題材に会話するのもいい。新聞は、日本語を学ぶいい機会でしょう。日本やハワイ、世界のニュースをお子さまとの話題にしていくのもいい方法ですね。

　 日本語でおじいちゃんおばあちゃんに手紙を書こう

　日本に住んでいるおじいちゃんおばあちゃんへの連絡は、LINE電話やskype、Facetimeなどのツールを使っていると思います。しかし、たまには手紙を書いてみてはいかがでしょうか？　日本語で自分の気持ちを伝える。実際に習った字を使って書く。ひとつのモチベーションにもなるでしょう。そういうことも日本語の学びです。

　 日本語の教科書は購入可能です

　日本の教科書はうまくできていて、四季をきちんと扱っています。ハワイにいながら季節季節を意識できるような構成になっている。よくできているんですよ、レインボー学園に通っていなくても、日本国籍を有する義務教育学齢の児童であれば、日本の教科書は領事館から無償で手に入れることができます。また、OCSホノルル代理店（808-596-2106）から、いつでも購入することが可能ですので問い合わせてみるといいでしょう。

　 現地校の宿題の一部を日本語で説明してもらうのも効果的

　日本では、家庭学習の目安、があります。学年かける10分。1年生は×10で10分。2年生だと20分です。忙しいとなかなか難しいでしょう。ですから1日5分でも10分でも日本語に触れることが重要です。勉強の時間を取るのが難しいとしたら、親が積極的に意識的に日本語を使うことです。会話でなく読み書きの時間です。1週間に一度でいいから絵本の読み聞かせをし、親が読むだけでなく、子どもに呼んでもらう。現地校の勉強につなげるのであれば、その宿題を、ここ日本語にしてみて、とやってみる。　普段から日常起きることを会話につなげ、学びの機会にすることを各家庭でしてみてください。言葉はコミュニケーションツールです。ひとりだけで学習していても限界があるのですから。

（取材・文　鶴丸貴敏）

稲田 和良 いなだ・かずよし 1956年生まれ。北海道出身。千葉大学教育学部卒。千葉県船橋市の小学校に勤務。1992年、在サウジアラビア王国ジェッダ日本人学校で派遣教員として３年間勤務。教育委員会を経て、船橋市立法典小学校の校長に着任。2017年に退職後、小学校勤務を経て2019年、ホノルル補習授業校の派遣校長として着任。

（日刊サン 2020.1.24）