さてさて、先月のコラムで少し触れました、チャイナ・タウンで体験した“不思議なこと”についてお話ししようと思います。
3年ぶりのハワイ、絶対に行かなければならない場所のうちの一つ出雲大社へ、サンダル足も軽やかに向かいました。ヌウアヌ・アヴェニューからチャイナ・タウンへ、何度も通った道筋ですが、なにせ病的と言っていいほどの方向音痴。スマホのGoogleマップとThe Busのアプリが頼みの綱です。おりしも国慶節のお祭りで、人出の多いチャイナ・タウンをなんとか通り抜け、ついに鳥居が見えてきます。じわっと胸が熱くなるのを感じつつ一礼し、いざ境内へ。
手水を終え、すっくと建つお社(やしろ)に目を向けた時、ちょうど拝殿に向かって右側、賽銭箱の横あたりに神職の男性が純白の幣(ぬさ)を持って立ってらっしゃるのが見えました。
珍しいことだなと思いながらお参りを終え、またふと賽銭箱の方を見てみると、まださっきの神職さんが立ってらして、なんと幣を振ってくださるようなのです。“わぁ、ラッキー!”とばかりに手を合わせ軽く頭を下げると、「祓いたまえ、清めたまえ」という厳かな声と共に幣の風がふわりと頭や肩にかかって、なんともいい気分。何度かお参りしていますが、こんなことは初めてです。
感動しきりの私は、了承をもらい神職さんの写真を一枚『パシャリ』と撮らせてもらいました。ところがなのです。この後、iPhonのセンターボタンが完全に作動しなくなり、Googleマップもアプリもなしに、アラ・ワイ運河近くのコンドミニアムまでとんぼ返りするはめに。とにかく、充電ケーブルにつないで、祈るような気持ちで真っ黒な画面を見つめ、待つこと30分。無事、復旧いたしました。一体、私のスマホに何が起こったのでしょう。
試しに部屋に生けていた花束の写真を撮り、写真をチェックしてみました。すると、どういうわけか、さっき確かに撮ったはずの神職さんの写真一枚だけが、撮れていないんです。国慶節の獅子舞の写真の次が、いきなり花束の写真で。“もしや時空の歪みに入り込んだ?”そんなことが頭をよぎります。そういえば“あの神職さん、初めて見た”“境内が異様に静かだった”“スマホは確かにフル充電だった”etc…
考えれば考えるほど“?”なのです。その後、ローカルの友人が調べてくれたところ、あの神職さんはパートタイムの方だったそうで、なんとも肩透かしのオチですが、写真の謎はまだ残っています。私としては、神域での“時空の歪み”という結末の方が、なんだかロマンチックだなぁ、なんて考えているんですが、皆さんはどう思われますでしょうか。
サンダル足の旅日記 No.2
酒井紀子
翻訳家、訳書として「シックス・センス」「フレンズ ― 6人は永遠に友達!」「アナと雪の女王」(竹書房)など多数。