今までずっと行きたくて、どうしても行けなかった場所、それがオアフ島最西端の岬、カエナ・ポイントでした。私は車の運転ができないし、ワイキキ中心部からかなり距離があり、しかもバスで行くとなるとなかなかの難易度。ハワイアンにとって大切な聖地でもあり、死後の魂の審判を受ける岩、レイナ・ア・カ・ウハネがあることでも有名です。
なんと、そのあこがれの地に今回、友人夫妻が連れて行ってくれるというので、私はもう嬉しくて、ただただ舞い上がってしまいました。長年、指をくわえながら下調べだけはしていたので、過酷なトレッキングになるのはある程度覚悟の上だったのですが、片道5キロの灼熱のトレイルには“トイレもなければ、木陰もないのよ”と、そのローカルの友人はさらりと言ってのけます。
夢叶っていざ行くとなると、ものすごい緊張です。帽子はキャップではなく、必ず後頭部までぐるりと覆うつばのあるもの。スニーカーかランニング・シューズを履き、絶対にビーチサンダルは禁止。十分な量の水を携帯し、強力なサンスクリーンを顔、腕、脚に塗りたくること。それでも陽が高く昇る前にトレイルの復路を戻り始めなければしんどいので、早朝5時に出発。友人は綿密な計画を立て、大量の予備の水を車に積み込み、朝食用のスパむすびまで作って準備してくれました。
そうです、こうして万全の準備のもとに決行となったわけですが、その絶景たるや、もう想像以上でした!オアフ島のどこでも見たことのない、手つかずの自然が延々と広がっているのです。地形的に水の確保が難しかったせいで、人が住むには適していなかったということもあり、本当にその地に足を踏み入れると“海と私だけ”という荒々しくも稀有な対峙を感じます。
ところが、そんな最果ての地の、そのまたずっと突端で、ハワイアン・モンクシールを見守る監視員さんたちを見かけました。モンクシールから距離をおき、静かに見守ってらっしゃるその姿を見て、この地に対する地元の方々の強いリスペクトを感じました。
そしてその後、トレイルの復路で犬連れの若者たち(本土からの旅行者)とすれ違いそうになった時、巨大なテディー・ベアのように温厚な風貌の友人のご主人(生粋のハワイアン)が顔色を変えて注意しているのを見た時も、やはり自分達の神聖な地に対するプライドと愛情をひしひしと感じました。
犬を連れてトレイルを歩くことは厳禁。通報されればすぐに厳重注意。美しい景色を堪能できたことはもちろんですが、そういった人間と自然の在り方のようなものを目の当たりにできた貴重な1日となりました。
サンダル足の旅日記 No.3
酒井紀子
翻訳家、訳書として「シックス・センス」「フレンズ ― 6人は永遠に友達!」「アナと雪の女王」(竹書房)など多数。