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コラム とどけMahalo! アメリカ本土便り

ウイスコンシンで独り言 ある芸者の生き方

 20年は経つちょっと古い本、「Geisha, A Life」を読みました。著者は元芸者の岩崎究香(みねこ)さんで、今年日本に帰って、京都へも行ったので興味深く読みました。

世間知らず

 わずか4歳で置屋の跡取りとして養子に入り、芸者になるべく修行を積み、それこそ1365日休みなしの修行と芸者としてのお座敷での応対で一人前になった岩崎さんは独り暮らしを始めます。ところが芸者として置屋という小さな世界で育ち、実社会のことを著者は全く知りません。一人暮らしを始めたと言っても、そうじの仕方や、お米の炊き方すら知りません。八百屋などに行って、お札を渡し、そのまま帰ろうとするとお店の人が追っかけてきて、おつりを渡そうとします。その当時、岩崎さんはお金の価値などに無頓着だったようです。

また、掃除機や炊飯器の使い方もわからず、故障だと思っていると、電源が入ってないだけだったことが電気店の人が来てわかったりしました。

 この著者とはちょっと事情が違いますが、私も独り暮らしを始めた時に、何でもお金がかかるのに驚いた記憶があります。まず家賃はもちろんですが、電気代、水道代、そして町内会費や汲み取り代など、生活するとなれば、座る布団がいるし、枕やカーテン茶碗や鍋、調理器具などもいります。当たり前と言えば当たり前ですが、経験しないとわからないこともあります。

世界の要人との出会い

 芸者として世間知らずではあっても、企業家や政治家はもちろん、世界中の指導者、皇族などが来日した際には、芸者さんは身近にこうした人達と接します。我々庶民と違いテレビなどでみる表向きの顔と身近でくつろいで話す姿の違いから人を見る目を養ったのではないかと思われます。

 この岩崎さんの本を読み終えて、芸者として名をはせ、仲間や業界での嫉妬や妬み、そして置屋の跡取りとしての重責もあったと思われますが、時代が変わっていっているのに、旧態依然とした花柳界へ再三改善を申し入れたのにも関わらず改善されないことに嫌気がさし、芸者を廃業してしまいます。廃業すると言っても、多くの人がこの置屋に関わり、生活がかかっています。廃業はそんなに簡単な決定とは思われませんが、それを二十代後半でやってしまうところにこの人の潔さを感じました。

 それから、その当時、この人には勝新太郎という映画俳優の愛人がいたようですが、「嘘は言わない」という条件で交際していたのに、自分の家族を優先し、著者には都合のいいウソを言っていることが続き、約束は約束と潔く縁を切る態度に好感を持ちました。

 この本から花柳界の師弟関係、礼儀作法、置屋の古いしきたりなどを垣間見た気がしました。また彼女が花柳界で成功したにも関わらず、新しい道を求めて突き進んでいく姿にさわやかな気持ちを持ちました。

とどけMahalo! アメリカ本土便り No.162

大井貞二(おおいさだじ)

1988年にハワイに移住。地元の私立校で日本語を教える。その後、ハワイ大学大学院を経て、ハワイパシフック大学(HPU)にて世界中からやってくる学生に日本語を教え、最近退職。現在アメリカ本土に居住。

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