“アレキサンドリアホテル”を観たい―映画の都ハリウッドのあるロサンゼルスで行くなら真っ先にここ、と思ったのがスキッドロウから近い“セブン”撮影地のホテルだった。
陰鬱な雨の降りしきる、とある街の殺人課で長年勤務するベテラン刑事サマセットは7日後に引退を控える中、スパゲティに顔を埋め窒息死した肥満男性の死亡現場へ向かう。そこへ、着任したばかりのやる気みなぎる若い刑事ミルズが到着、共に捜査を始めるがサマセットは直感的に底知れぬ異様さを覚え、引退を前に担当したくないと警部に掛け合うものの聞き入れられない。彼の予感は的中し、キリスト教における“7つの大罪”になぞらえた凄惨な連続猟奇殺人事件へと発展していく。
後味の悪い映画ランキングに必ず登場する本作だが、決してその一言だけでは片づけられない重厚な物語性を持っている。1年の9割が晴天のロサンゼルスで撮影されたとはとても思えない土砂降りの雨に加え、まるでバットマンの舞台ゴッサムシティのような犯罪の絶えない深い暗黒を感じさせる住民たち、街並み、そしてサマセット刑事が言う「人々の他人への無関心さ」は、気が滅入るほどリアリティがあり、しかし不思議と惹きこまれる。もちろん、7つの大罪をテーマとした殺人の残虐さはセンセーショナルであり、犯人の執拗さ、異常性が際立って気味が悪い。が、この怪物の如き人物を生み出したのは一体何なのか、或いは誰なのか?言及されることはなく、きっと明確な答えも存在しないのだろう。ふと「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらを覗いているのだ」という哲学者ニーチェの言葉が浮かんだ。
“セブン”の世界観を凝縮し象徴するような場所が、犯人とミルズ刑事が格闘したシーンの“アレキサンドリアホテル”だった。映画公開時の1990年代には昼間でも1人で歩くなと言われていたが、2010年に訪れた際は、裸足で下着姿の女性がふらふらと彷徨っているのを見かけた他は何も起こらず、やっとこの場所に来れたのだとただただ感慨に耽った。
●加西 来夏 (かさい らいか)
映画は年間100本以上視聴、訪問国は39ヵ国~の旅する映画ラヴァー/個人的事情により今回で映画コラムは終了となりますが、一番ともいえる自分の好きな作品を語ることが出来て嬉しく思っています。ありがとうございました。
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