ルーズソックスを履いた女子が目の前を通り過ぎた。カワイイ!と多くの日本の女子高生を虜にしたファッションが25年近くの時を経てカムバックしているらしい。
“キング・オブ・ロックンロール”、“世界で最も売れたソロアーティスト”と輝かしい称号を持つエルヴィス・プレスリー。1950年代にデビューした彼は、整った容姿や派手なステージ衣装はもちろん、歌唱力とセクシーなダンスで若者たちを瞬く間に魅了する。しかし、青少年に悪影響を及ぼしかねないと主張する保守派の大人や世間から危険視され、政治的問題も絡む事態に。さらに身近な人の死やキャリアの危機も訪れるが、それらを乗り越えて遂にはアメリカン・ドリームの象徴となる。その陰には、トム・パーカー大佐という強欲だが敏腕マネージャーの存在があった。
祖母のお気に入りで、世界的なロックスターであり、今なおどこかで生きていると信じるファンがいること―彼について知っている情報はそれだけだった。なので、キング牧師やマルコムXを筆頭に公民権運動があった史実は知っていたものの、まさにその激動の中で歌手活動をしていたのか、と点と点が繋がり驚いた。アフリカ系アメリカ人の音楽であるゴスペルやブルースを、白人が歌うこと自体が異端だったなんて…一見、革新的で反骨精神に溢れたことのよう思えるが、彼に偏見はなく、ただ自分が愛する音楽を作り、届けたいと信念を貫き続けた。その思いがひしひしと伝わるステージでのパフォーマンスが、まるで今起こっている奇跡のような臨場感で素晴らしかった。また、単なる伝記映画にとどまらないのはパーカー大佐の視点でエルヴィスの人生が語られている点だろう。ショービジネス世界の光と影がこれでもかと浮き彫りになる様も、とても興味深い。
ルーズソックスは履いていた当事者なのでただのノスタルジーかも知れないが、自分が生まれる前のエルヴィスの全てが、今見ても斬新でクールだ。あんな熱量や熱狂的ブームも一緒にカムバックしてくれないかと願ってしまう。
●加西 来夏 (かさい らいか)
映画は年間100本以上視聴、訪問国は39ヵ国~の旅する映画ラヴァー/彼の“Love Me Tender”は好きなバラードなのですが、どうしても先に頭の中でユーロビートのノリノリの同名曲が再生されてしまいます…。
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