失恋の翌日、ヤケを起してカンクンへ飛んだ。入国審査の際、「なぜ1人なんだ?友人がいるのか?」と質問され、“Vacation! My heart was broken!”と答えたら、気の毒そうな表情でスタンプを押してくれた。
「ヨーホーヨーホー、これが海賊の暮らし!」
カンクンのビーチに寝そべり海を眺めていたら何もかも忘れた。これぞかねてから憧れていたカリブ海!というのも、公開当時、劇場に5回は足を運んだ大好きな“パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち”の舞台なのだ。目の前に広がる澄みわたるターコイズブルーの海…メキシコの通貨さえも知らず衝動的に来たわけだが、この英断をした自分を褒めたい。数日間、テキーラと、ソルやドスエキスといったご当地ビールを堪能して過ごした。気分はまさに海と自由を愛する海賊、ジャック・スパロウ船長そのもの。
もちろんただ酒浸りだったわけではない。マヤ文明が9世紀頃に建設したチチェン・イッツァ遺跡にも訪れた。生贄が投げ込まれたというセノーテ(泉)や球技場もあったが、やはり一番の見所はヘビの神『ククルカン』を祀ったピラミッド。春分の日と秋分の日の日没時にだけ、階段の影とヘビの頭が重なり、大きなヘビのシルエットに見えるよう細工が施されているのだ。エジプトの三大ピラミッドがオリオン座を示しているのと同じように、古代の人々の天文の知識には本当に驚かされる。
また、街を散策していると置物から酒瓶、キーホルダーと至るところにポップなガイコツが溢れており、まるで国のアイコンのようだった。どうやらメキシコには『死者の日』という祭りがあり、賑やかに故人を偲ぶらしい。そういえば“007スペクター”で盛大な祭りのシーンがあったなと思い出した。
失恋してメソメソ泣いている暇などない。次行こう、次!と、新しい出会いを求め…る前に、まずは何処へでもいい、旅に出てスッキリと気分転換をするのがおすすめ。特に美しい海は、全てを洗い流してくれると信じている。
●加西 来夏 (かさい らいか)
訪問国は39ヵ国、好きな言葉は「世界は驚きと奇跡に満ちている」/お土産用に買った大量の小瓶テキーラの中に1つだけ芋虫の幼虫が入っており、血の気が引いて思わず投げ捨てました。でも、そういう商品なのだそうです。
(日刊サン 2021.10.24)